ふてくされたみたいに








寂しさに乱れて
切なさに酔いしれて

悲しみを口説く場所










月も出ていない真っ暗な深夜。
万事屋に入ってまず感じたのは、酒のにおいだった。
そして次に感じたのは隙間から滑るように流れる風。

これは待たせすぎた、
高杉はそう思いながら、後ろ手で玄関の扉を閉める。
そして音を立てずに居間へと向かった。




「……………。」

入ってみたはいいものの、部屋の中も暗くてよく見えない。
なので高杉は手探りでスイッチを見つけ出し、部屋の明かりを付けた。

床に転がる空き瓶。
机上に散乱する食べ残し。
そして大の字で寝ているこの家の主。
一瞬、泥棒でも入ったのかと思えるほど荒れていた。




「銀時。」

「………………。」

「おい。」

「………………。」

「起きろ天パ。」

「ンー…。」

高杉の呼びかけに、銀時は眉を寄せる。
すると部屋の明るさに気付いたのか、ゆっくりと目を開けた。

赤い頬。
乾いた唇。
焦点が合っていない目。
そして見慣れない浴衣。
いったい何をしているんだコイツは。




「…た……かす…ぎ?」

「随分とお楽しみだったようだな。
今日は俺がここに来るって予告したはずだが。」

高杉の苛立ちをよそに、銀時はまばたきを繰り返して頭を掻く。
そして怠そうに体を起こした。




「…んだようっせーなぁ。
落ち合う時間はとっくに過ぎてんだろーが。」

「遅くなるかもしれねぇって言っただろ。
それに、その浴衣どうした。」

「どっかの誰かさんがいつまで待っても来ねぇから、さっき一人で夏祭りに行ったんだよ。」

「祭りだ?」

「そ。
吉原のド派手な夏祭り。
屋台とかもあってさ、なかなかに楽しめたね。」

「初なお前が吉原か…。」

「あ、銀さんナメんなよ?
吉原の救世主様ってことで良い酒やらつまみをたくさん貰いましたー。
花魁たちにめっさ口説かれましたー。
モテ期到来なんだぜ。
羨ましいだろー。」

へへへっと笑う銀時はかなり饒舌だった。
高杉はため息を吐きながら隣に座ると、銀時は当たり前のように寄りかかる。
いつもなら引っ剥がしてるところだが、酔っぱらい相手だと面倒なことになるので、高杉は放っておいた。




「街を歩けば皆寄ってたかって酒とかつまみを持ってくるからよぉ。
そのまま飲んで食べて飲みまくって…気付いたら知り合いの茶屋ん中で寝てた。
で、時間もアレだったしどっかの遅刻野郎が来てたらヤベェってんで土産をたんまり貰って帰ってきたわけ。
でもまだ来てなかったからここで飲んでパーッとやってたんだよ。」

遅刻魔とかサイテーだよな。
この俺を待たせやがって。
本当に…。




「最低…。」

銀時は高杉の腕にしがみついて頭を擦り寄せる。
そして着物から香る煙管の煙に、銀時は静かに目を閉じた。

そう。
どんなに酒で埋めても欲しいものは変わらない。
だから期待して朝からずっとスタンバってたというのに。




「……………。」

「銀時。」

「……………。」

「悪かった。」

「……………。」

「この埋め合わせは後々やってやる。」

だから機嫌を直せ。
そう言って頭を撫でてくる高杉に、銀時はフフと笑う。




「違う。」

「あ?」

「俺が欲しいのはそんな言葉じゃねーの。」

頭を撫でる手を取り、自分の胸板に誘う。
浴衣の上から乳首に触れると、そこはもう既に硬くなっていた。
すると高杉の手が浴衣の隙間から入り込む。




「ん………。」

的確に攻める高杉の手に銀時は息を洩らす。
顔を上げれば唇が重なり、お互いを求めるように舌を絡ませた。

この感触がたまらない。
もっとしてほしい。
銀時の意図を理解した高杉は、そのままソファーに銀時を押し倒す。




「どうなっても知らねぇからな。」

「期待してる。」








(とんがったその胸も)
(やさしく刺激してやる)







14,07/21
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