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※大学生×高校生パロ
高校時代は『自分は最強』という脳内設定が勝手にできていた。
毎日のように、公園やら路地裏で他校のヤンキーらと乱闘。
しかし学年が上がるごとに挑戦者も少なくなり、例えいたとしてもレベルは見えているので楽しくなくなった。
最強というのも中々に辛い。
そう思っていたある日。
「いずれは俺の元で働かないか」と、見た目からしてワケありな男に声をかけられた。
やっと現れた好敵手。
そのゾクゾク感は今でも忘れない。
それから数年後、まさか本当に男の元で働くことになるとは思わなかった。
しかも今話題の、あのカフェに。
「神威?」
「……………。」
「かーむーいー!」
「……んー?」
呼ばれて顔を上げれば、大きな青い目。
確かテスト前のベンキョーをしていたのだが、いつの間にか寝てしまったらしい。
時計を見れば一時間ほど経っていた。
(って、ここは俺の家のはず…)
何で妹がいるんだ。
「喧嘩馬鹿が勉強して寝落ち、ベタな展開アルな。」
「んんー…。」
「授業もどうせ寝てるんでしょ?」
「なんだよ神楽…いつの間に。」
「今日は学校が午前終わりだったアル。」
「おぅふ。」
「特に用事も無いから立ち寄っただけネ。」
ソファーで横になっていた神威だが、妹の襲来により平和が打ち砕かれる。
大学生になったついでに一人立ちしたのが数年前、しかし何かしら理由をつけて遊びに来る妹は神出鬼没で油断できない。
浮いた話が一つもないのはこれが理由なのだ。
「まったく、俺の家族はどいつもこいつも…。」
昔から、彼女ができたと言えば妹の審査が入り、ついでにハゲ親父も乱入してくる。
俺の人となりを知ってる奴等は、どいつもこいつも彼女の心配ばかり。
その影響で、結果的に別れ話になるのだ。
昔から過保護なのか心配性なのか、だが神威も全うな生活をしてきてないので文句は言えない。
だから一人暮らしを始めたというのに。
(俺も寂しいのか、なんて)
本気で拒まない俺もよくわからない。
よくわからないから、変な気分になる。
「あ、何か買ってきてる。」
「いつも行く店で売ってたのヨ。」
「ふーん。」
「今年のトレンドって聞いたアル。
この程度なら男部屋にも支障は無いでしょ?」
神楽が袋から出してきたのはマグカップや皿。
神威の部屋には色気が無いとダメ出しをされて以来、神楽のコレクションたちが置かれるようになっていた。
それも男部屋に馴染むよう控えめなデザインなのだから、意外とセンスは良いと思う。
そして今回の神楽イチオシは花柄らしい。
ソファーの上で寝転がった神威は、クッションを枕にして神楽コレクションを見ていた。
「あれ、またセット品?」
「片方は私のアル。
私が選んで買ったんだから文句は言わせないネ。」
「はいはい。」
花柄のマグカップやタオルなど生活に必要なもの、そしてどれも二つずつのセット品ばかり。
同じ色のものはさっさと振り分け、 違う色のものはじっくりと吟味しながら選んでいく。
どちらが妹の好みなのか、ずっと側で見てきたのだから見分けるのは容易い。
今は黄色か水色。
だから俺は、
「神楽。」
「ん?」
「俺、黄色が良いんだけど。」
「え、」
うつ伏せの状態で、神楽が持つ片方のマグカップを指差す。
それには神楽も驚いたようで、目を丸くしていた。
(何故って顔をされてもなぁ…)
さっきから水色の方だけじっくり見てるから。
時間をかけて見る方、直接触っている方、目の色が変わる方、自覚は無いようだが神楽の行動にはヒントがある。
幼い頃から、兄妹へのプレゼントを貰えばどちらにするかと話し合って決めてきた。
そのため見極めは早い。
大概は妹に選ばせて、兄貴は残った方。
その流れは経験上、手に取るようにわかる。
ただ注意点は、神楽の好みはその都度変わること。
女の子だからとピンクや赤などを好むわけでもなく水色や緑が良いと言う時もある。
そして今回、神楽の心を射止めたのは水色の方。
なら俺は違う方を選び、穏便に事を済ませるだけ。
「俺が黄色じゃダメ?」
「え、あ…ううん。
じゃあ神威にあげる。」
「ありがと。」
神楽は黄色のマグカップを置き、水色の方を袋に戻してバッグにしまった。
これで解決。
だが名残惜しいのか、チラチラと黄色のマグカップも見ている。
お、これは良いネタになるかも。
「神楽。」
「ん。」
「水色の方も置いていきなよ。」
「え?」
「神楽が俺に嫁入りしたらわざわざ持って来なくていいじゃん?」
「な…、」
またこの兄貴は…と飽きれ半分、お悔やみ半分。
神楽は小さくため息を吐いて「ばーか」と返事をした。
小さい頃からの定番ネタなのだが、年を重ねていくごとに神楽の反応は悪くなるばかり。
昔は「かむいとけっこんする!」とキラキラした目で即答だったのが、いつしか「何言ってんだコイツ」と哀れむように見てくる。
確かに幼いジョークを繰り返す俺も悪い。
だが半分ジョークじゃなくなってきたのも事実。
これを本気だと認めさせるにはどうしたら良いか。
「神威もねちっこい奴アルな。
いつまで経っても口説きが変わらないネ。」
「なら口説きを変えたら応えてくれんの?」
「私はそんな安い女じゃないヨ。」
今までどれほどの男を蹴落としたと思っているのか、自慢げに語る神楽に神威はそれもそうかと納得する。
喧嘩馬鹿の兄貴、の妹。
それだけで神楽にちょっかいを出してくる輩もいたが、神楽は動じず神威や父親に学んだ護身術と体技で自分の身を守ってきたのだ。
兄妹なだけあって素質はあるとハゲ親父も言っていたか。
守っていた頃が懐かしい。
「つまり、下手な口説きをすれば俺も蹴散らされるってワケね。」
「そうヨ。
神威も気を付けないとネ。」
にっこりと笑顔の神楽。
だが考えていることは腹黒い。
なら次はどんな口説きにしようかなと神威が考えていると、神楽が思い出したように言った。
「そういえば新しいバイトが決まったんでしょ?」
「まぁね。」
「経歴を偽って提出したアルか?」
「んな面倒なことはしないって。」
「だって神威を許せる職場なんてそうそう無いネ。」
「まぁちょっと珍しいかな。」
「どこアルか!
私も見学してみたい!」
ソファーで再び仰向けに寝転んだ神威に、神楽は興味津々に近寄ってきた。
どこの職場なのか、どういった仕事なのか、シフトはどうなるのか、目を爛々とさせながらの質問攻めに、神威は考えながらも適当に答える。
それに対し神楽が不服そうだったので提案を持ちかけた。
「まぁ口で説明するのもアレだからね。
今度一緒に行ってみる?」
「本当?!」
「働く前の下見見学ってことで呼ばれてるからさ、その後だったら合流できるよ。」
「行くアル!
家族代表としてご挨拶ネ!」
「そこは嫁、じゃなくて?」
「嫁候補、だったら良いアルヨ。」
「これだもんなぁ。」
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