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※銀時♀、社会人パロ注意
それはまだ学生の頃。
同じバイト先で知り合い、悪友として慣れ親しんで自然と交際が始まった。
だがアイツは付き合っていても掴み所が無く、踊るように近付いては逃げて試しての繰り返し。
「完全にお前のものになってたまるか」とどこか挑発的な、そして自由に過ごしていた。
そんな女を本気で欲しいと思い、ついに行動に至ったのはある年の春先。
素直に告げてもその場で返事はしないだろう。
あれこれ言い訳をつけながら、また後日返事をすると言って逃げるのはわかっていた。
そんなツンデレを落とした方法。
それがこの店の伝説になっている。
「晋助…。」
「ん。」
店の中にある従業員用の休憩室。
これから開店準備に向けて着替えていた嫁が、不意に抱き付いてきた。
新商品で出す予定の紅茶を飲みながら、旦那もとい高杉は静かに受け入れる。
「どうした、銀時。」
「……………。」
「昨日あんだけ甘やかしても、まだ足りねェのか。」
「…昨日は昨日、今日は今日なわけ。」
だから充電させて。
そう言って、銀時は高杉の胸板に頭を擦り寄せる。
この状況は昨晩と似ているが、あの時はお互いに全裸で、火照る体や濡れる陰部、蕩けた銀時の顔など全てが見えていた。
…が下手に思い出せばまた興奮するので割愛する。
「何か不満かあれば今のうちに言えよ。」
「……………。」
「銀時。」
「…………最近、」
「……………。」
「どこぞの旦那の帰りが遅いから心配…とか、」
「心配?」
「寄り道してるかもって。」
「例えばどこに?」
「………………。」
銀時は口を閉じる。
本音は喉まで来ているらしいが、それを言えないまま飲み込んでしまうのがツンデレ。
その本音はわかっているが、あえてそこは言ってもらう。
でなければ、銀時が疲れるからだ。
「銀時。」
「ん……。」
紅茶のカップを置き、銀時の頬に手を添えて顔を上げさせる。
そして自然な流れで唇を重ね、舌を絡ませながら蕩けるような口付けを交わす。
昔から、銀時は口付けに弱い。
初めて重ねた時ですら、顔を火照らせて素直に感じていたし、性交時は気が済むまでずっと貪っているのだ。
何がそこまで良いのかと尋ねたところ「晋助を感じられる」「それが気持ちいい」と答えてきた。
そこから何万回と唇を合わせ、同時に口説くという流れが定番となっていた。
そして今の銀時にはそれが一番効く。
(侵食されてんな、俺も)
銀時が首に腕をまわしてきたから。
舌を絡ませては吸ってくるから。
気持ち良さそうな顔をするから。
もっと悦ばせたいと本能に火が点く。
これが銀時が欲しいと思った理由の一つ。
「んん……ン……はぁ…。」
「は………、」
「ん……し…すけ…。」
「…俺が、他の女と歩いてたか?」
「…………んん。」
「俺が、どこに行くかって?」
「だって…すぐ帰って来ないから。
昨日も…その、ギャバとか、ホテルとか、息抜きしてたらって…。」
「息抜きした後にあんだけお前を抱けるか。
お前は俺を何だと思ってんだ。」
「性欲大魔人。」
「素直に言いやがったなテメェ…だが、」
「ん…っ」
「心配されるほど、愛されてるって解釈で良いな。」
「…ぁ……、」
「俺は、どこにも行かねぇ。」
「ぁ…ん……。」
「俺はお前だけが欲しいんだ…銀時。」
「はぁ…はぁ………ぁん、」
「コレを渡したとき、そう言っただろ。」
コレ、と言って見せる己の薬指。
銀時の首筋を舐めては吸っていた高杉は、銀時の様子を伺う。
頬を赤くした銀時は高杉の薬指に口付け、再び唇に吸い付いては濃厚に絡ませ続けた。
(今思えば…)
求婚には良い背景だった。
昼間はカフェ、夜はレストランという店の特徴。
それを利用し、夜景の見える席で銀時に求婚したのだ。
それも、かなりベタなやり方で。
それは高杉が店のバイトから経営側になってから、銀時は別の就職先で社会人となり、しばらくしてからのこと。
店で新商品を出すから試食してくれと、銀時を呼び出すところから始まる。
当日はばっちりドレスコードをし、レストランで一緒にディナーを食べ、最後のデザートが終わった。
その時に仕掛けた。
高杉はスーツ、銀時はワンピースとまさに大人の正装だったがその時≠ヘ店の制服であるギャルソンに着替え直し、一歩引いて銀時を引き立たせた。
高杉は花束を持って登場。
ざわつく店内。
その中で片膝を付く。
「お前無しでは生きていけない。」
花束を渡す。
目の前でケースを開る。
指輪を見せる。
「これからも側にいてくれ。」
最後は敬語で告げる。
「俺の、嫁になってください」と。
「はあ…はあ……。」
「銀時…。」
熱く濃厚な口付けに、銀時は必死に高杉にしがみつく。
そして息を整えながら再び高杉の胸板に顔を寄せた。
あの時もそう。
突然の求婚に硬直した銀時だが、高杉はそのまま薬指に指輪を通した。
そして次第に我に返った銀時は予想通りあれこれ言いながら慌てていたが、いざ抱き締めると涙ぐみ始め、素直に嬉しいと返事をして求婚を受け入れた。
その際にした口付けが忘れられない。
周りに他の客がいる中、人目を憚らず交わした口付けはとても甘く官能的で、同じ従業員が止めに入らなければ目の前のテーブルをベッドにするところだった。
「…お前は変わらねぇな。」
「ん…?」
「素直じゃねぇとこも、不意打ちで甘えてくるとこも。」
「……………。」
「変わったのは、より綺麗になったのと、より可愛くなったところだな。」
「…そんなこと、」
「それを無自覚で振り撒くから、俺も心配なんだよ。」
油断すれば他の男に盗られるんじゃないかと。
お前以上に俺も嫉妬深いんだぜ。
「晋助のばぁか…。」
「褒めんなよ。」
額をくっつけ、クスクスと笑い合う。
同時に銀時の胸の内を聞き出せたことに、高杉は一安心する。
休憩室に小さく響く時計の音。
開店の時間が近付いてきたので、名残惜しみつつ体をゆっくりと離した。
だがそれだけではもったいないので、先程から試飲している新作の紅茶を銀時にも渡し、軽いブランチを楽しむ。
香り付けのベルガモットが強く出る甘めの紅茶。
人によって砂糖はいらない、スイーツと一緒に出せば良いかも、まぁ俺は砂糖追加するけど、と銀時の意見を聞きながら今後のメニューを考えていた。
「今夜はどうだ。
それっぽい奴らは何組予約してる?」
「んーとね、特に無いけどそれっぽいのは1組かな。」
「俺らの話がまだ続くとは…。
噂ってのも馬鹿にできねぇな。」
「あ、ちなみに。
今夜のそれっぽい1組って晋助のトモダチね。」
「…ここまで来ると末期だな。」
「ご利益って言えよ。
まぁ既にくっついてるもんだし、やり方によっては一発でいけるかもね。」
「なら見学でもしてやるか。」
「え、見んの?」
「噂の教祖が見守るんだぜ?
これ以上のご利益はねぇだろ。」
「…邪魔すんなよ?」
「勿論。」
邪魔はしねぇが、ちょっかいは出す。
求婚する側が従業員≠フ野郎≠セったら尚更。
「あんまいじめんなよ。
見た目のわりにナイーブなんだから。」
「さて、今夜が楽しみだなァ。」
「うーわ、悪い上司だなぁもう。」
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