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そらいちめんに青白いうろこ雲が浮かび月はその一切れに入って鈍い虹を掲げる。町の曲り角の屋敷にある木は脊高の梨の木で高くその柔らかな葉を動かしてゐるのだ。

雲のきれ間にせはしく青くまたたくやつはそれも何だかわからない。今夜はほんたうにどうしたかな。八時頃からどこでもみんな戸を閉めて通りを一人も歩かない。お城の下の麥を干したらしい空くひの列に沿って小さな犬が馳けて來る。重く流れる月光の底をその小さな犬が尾をふって來る。

夜の赤砂利、陰影だけで出來あがった赤砂利の層。櫻の梢は立派な寄木を遠い南の空に組み上げ私はたばこよりも寂しく煙る地平線にかすかな泪をながす。
うろこ雲

"うろこ雲"より/宮沢賢治(青空文庫)
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