Xmasの思い出
未来クッキング


 仕事が忙しいことを理由につい疎かにしてしまった私が悪かった。気付いた時にはクリスマス目前。予約しようと思ったら時既に遅しだった。去年食べたいって言っていたケーキを取り逃してしまった私は絶望に打ちひしがれていた。
「今年、ケーキどうしよう……」
 本命一筋な私は代わりに他の子を選ぶことはできなかった。二人掛けのソファを占領し、うつ伏せになって足をばたつかせる。
「アキ」
 はしたないとしかりつける気なのか。傷心中の私はこれ以上何を言われても傷つかない。
 足元の空いているスペースに腰を下ろした迅は私を見ながら呟いた。
「目に毒」
「……何が?」
「足」
 こんな時期に部屋に短パンで過ごしているから寒くて止めて欲しいってこと? 別にいいじゃん。部屋の中あたたかいし。
 そう思えば迅は私のお尻を触ってきた。
「誘ってる?」
「誘ってない」
 足って言ったくせにお尻とかなんなんですか。いや、そうじゃない。振り払うように起き上がって迅と向かい合うようにして正座する。これでお尻は触れないでしょ。どうだ睨みつけてやる。
「それよりも大事なことがあります」
「うん、なんだろう」
「ケーキ」
「おれよりも?」
「ケーキ」
「彼氏より食い気って、おれ可哀想」
「私も可哀想。去年迅と食べようって言ったケーキ食べれない」
 来年も一緒にクリスマスしようって。このケーキ食べようねって。そう言った時の迅の顔は胸がきゅんとするような可愛い顔だった。だから今年は絶対、命に掛けてもそのケーキを食べようと決意した。それなのに、それなのに!!
「私の馬鹿ー! どうして忙殺されて忘れるかな……」
「アキそんなに落ち込まないで」
「落ち込むよ。私は迅とケーキが食べたい」
「……そんなに言うならさ」
 仕方ないと言わんばかりに迅は眉をハの字にして微笑んだ。
「じゃあさ、作ってみる?」
「は?」
「ケーキ」
「私、ケーキ作ったことないよ?」
「おれはアキの手作りが食べたい。駄目ならアキ本に……」
「仕方ないな〜一緒に作ろう!」
「……おれ、マジで傷つくんだけど」
 知ってるよ、その顔は本気半分冗談半分でしょ。折角のクリスマスなんだからいつもはやらないことをしたい! だから私はもう半分の方を選ぶ。
「じゃあ、お互いの好きなものトッピングしよう」
 そう提案した私は馬鹿だった。
 土台も買ってくるって迅が言うから素直に任せたのだ。

「ねぇ迅、これはどういうことだろう?」

 素敵な笑顔で優しく聞いてあげたのに迅は悪びれることなく答える。
「ぼんち揚げ」
「これは?」
「ぼんち揚げ」
「ぼんち揚げしかないんだけど、スポンジはどこへ行ったの?」
「これ」
 そう言って迅が指したのはぼんち揚げだった。この男舐めてるの。
「え、何考えてるの」
「真面目に考えてるよ。大丈夫。この組み合わせは上手く行くっておれのサイドエフェクトは言っている」
「嘘!」
 迅が用意したのはぼんち揚げ。私が用意したのはいちごとクリームとチョコ。え、これ本当に合うの? いや、ケーキになるの? 思わず眉間に皺が寄る。
「なるなる〜」
 迅は冷蔵庫に手を掛けた。私の食生活オープンにしないで欲しい……今更だけど。
「おーちゃんとあるな」
 言うと迅は私とは違ってエプロンが似合うコックさんになった。

「マジか……」

 テーブルの上に降臨したケーキのカタチをしたものに私は呟いた。
「どこからどう見てもケーキだよ!」
「ケーキじゃないものに見えたら困るけど」
 エプロンを畳んでいる迅の腕を引っ張ってテーブルの前に座らせる。ケーキ作りはほとんど私は無力だった。ぼんち揚げ生地を作るためにぼんち揚げを踏んで味見ぐらいしかしていない。だから最後の飾りつけは一緒にやりたかった。
「迅、苺どこに置けばいいかな!?」
「好きなとこでいいんじゃない?」
「私センスないよ!」
「食べれば同じだよ」
 なかなか置く場所が決められず彷徨う私の手を取って迅が苺をケーキの上に着地させた。もうこの子はこの位置から動かせない。
「うわっ、酷ーい」
「放っておくと三十分はこのままだよ」
「嘘〜」
「じゃない」
 迅の手が次から次へと苺を配置させる。あまりの手際の良さに反論する隙が全く無かった。
「ぐ、じゃあ私はクリームを!」
 袋を絞るだけでしょ。大丈夫大丈夫! と思っていた私は甘かった。優しく押し出しても上手くでなかったから思いっきり力を籠めたら凄い勢いで出てトッピング? なにそれ状態になってしまった。
「じ、迅、たすけてー」
「出たのは諦めよう」
 いや笑ってないで助けてよ。睨みつければしょうがないと迅が後ろから私の手の上から添えるようにして一緒にクリームを絞ってくれた。
 なんでこんなに器用なんだ、羨ましい。でも……
「懐かしいなー子どもの時、お母さんと一緒にやったんだよね」
「女の子だね」
「迅はやらなかった?」
「……やらなかったな――」
「そっか。一緒に作るの楽しくない?」
「うん、楽しいよ」
 優しい返事に思わず想像する。
 迅は私より料理が上手いからほとんど作ってくれて、それを食べるのは美味しいし凄く嬉しい。けど、こうやって一緒に作るのはもっと楽しい。
 その中に私はまだ見ぬ可愛い影まで想像しちゃった。
 飾り付けが終わって、迅の手が私の手から離れていく。それを引き止めるように言葉は簡単に零れ落ちた。
「子どもと一緒にケーキ作り、やりたいよね」
「……アキ、誘ってる?」
「少し」
 でも、その前に凄く大切なことがあると思う。
「迅、私と一緒に家族になろう」
「うん」
 どちらからかは分からない。気づいたら私達はキスしてた。


20181224


<< 前 | |