三雲修
すれ違いヒーロー


「神威、もう一人はいないのか?」
「うん。この後用事があるみたいで帰っちゃった」
「そうか。じゃ、手伝うよ」
「悪いよ…」
「僕が手伝いたいだけだから気にしなくていいよ」
「ありがとう三雲君」


本当に些細なことだった。
日直をさぼって先に帰ってしまったクラスメートの代わり手伝ってくれた。
その事を友達に話したら気があるんじゃないかと、からかわれた。
そのせいで相手の事をちょっとだけ、本当にちょっとだけ意識をするようになった。

三雲修君は…

誰か困っている人がいれば、
普通は面倒がって誰もやらないようなことを自らやってのける人だった。
優等生という言葉を体現化した存在で、
本当にこういう人いるんだなって思った。
凄くいい人だった。
…残念な事にあまり目立つ方ではないみたいだけど。
それでも三雲君はずっと困っている人がいれば助けていた。
いつの間にか私は三雲君の事を目で追うことが増えていて…
友達がそれは恋だよって言った。
多分そういうのじゃない。
私はただ…自分だけが三雲君のいいところを知っている優越感?みたいなものに浸っていたんだと思う。
だからきっと恋じゃない。


ある日事件が起きた。
ネイバーが学校に現れた。
訓練通りに先生の指示に従って…というよりは人の流れに乗っただけだった。
無事にグランドに行けた私は見ていないけど
三雲君がいつものようにクラスメートを助けたらしい。
ただ、いつもと違うのは彼がボーダーで、
トリガーを使ってネイバーを倒したということだった。
彼は全校生徒のヒーローになった。

「三雲君凄いよね」
「三雲先輩かっこいい」

ボーダーだということを自慢するわけでもなく、人助けする彼のことを皆言う。
凄い。偉い。かっこいい。尊敬する。
友達が言う。
私、好きになっちゃったかも。

彼は変わっていない。
変わったのは周り。
変わったのは私の気持ち。

彼は慕われてもおかしくないと知っているのに、彼を慕う人が急に増えて面白くなくなった。
私だけ知っていた三雲君を皆が見るようになった。
それがなんだか淋しいような腹立たしいような、よく分からない気持ちでいっぱいになった。


今日は委員会の仕事で教室に一人で作業していた。
「神威さん、空閑見なかった?」
「うん、見てないよ」
急に三雲君が来てビックリした。
ちょっと声裏返っちゃった、恥ずかしい…。
「結構あるみたいだけど、俺手伝うよ」
「大丈夫だよ、もう直ぐ終わるから。
ありがとうね」
「俺、何もしてないよ」
「気持ち、貰ったから。
そ、それより、空閑君だよね?
探すの手伝うよ?」
ちゃんと話したのは久しぶりで、変に意識してしまう。
「大丈夫。
俺もう少し探してくるから、もし空閑が教室戻ってきたらここで待つように伝えてくれないかな?」
「うん、分かった」
彼は言うとすぐに教室を出て行った。
それが淋しく感じる。

「うーん、なんとも言えない会話だな。
気の利かない二人だけだとこうなるのか…」
「空閑君!?」
彼が探していた空閑君がいつの間にかいる。
え、入れ違い?
そんなわけないよね!!?
「空閑君、い、今、三雲君が…」
「うん、俺を探してたな。
近くにいたのに…おさむはどこへ行くんだろうな」
「…会話聞いてたんだよね?
だったら呼び止めればいいのに」
「うーん、それは難しい問題」
空閑君の言葉、意味が分からない。
私が変な顔してたら空閑君が真っ直ぐ見てくる。それがちょっと怖い気がした。
「お前、おさむのこと好きなのか?」
「え!?」
「いつも見てるだろ?」
空閑君の言葉にギョッとした。
「違うよ、そんなんじゃない」
「つまらない嘘ついても、おさむには伝わらないぞ。
おさむ、見た目通りの不器用だし。
自分自身に対する悪意もそうだけど好意にも疎いから」
空閑君の言葉が私の中に反響する。
私が三雲君を好き?
そんなの誰にも言われたことない。
いつも見ているのだってもう癖みたいなものでーー…。

「おさむも神威もメンドくさいな。
直接言えば話は簡単なのに…」
「だから違うの。私は…」
理由をつけようとしたら言い訳じみたものばかりになっているのに気づいた。
それは何故?なんて聞けない。
あの時友達に恋だと言われた時とは違う。
いつの間にか大きくなった私の気持ちを
目の前の空閑君が自覚させた。
違う、認めさせた。
それが分かって急に恥ずかしくなってきた。
「私、帰る」
「ん?仕事あるんだろ?
おさむ戻ってくるまでここにいればいいじゃん」
「空閑君が変な事言うから帰る」
「じゃ、俺どっか行く」
「三雲君が空閑君が戻ってきたら教室にいるようにって言ってたよ。
だから残って、バイバイ」
逃げるように荷物まとめて帰った。
転入してきたばかりの空閑君に言われるくらい私はきっと重症なのかもしれない。
だとしても絶対伝えない。
私が知っている三雲君は凄くいい人だけど
同時に彼は全校生徒のヒーローだから。
ちょっと距離が遠く感じるけど…あぁ、そうなんだ。
だから私は淋しいんだ。
身近なクラスメートがヒーローになったから。
私だけが知っている三雲君じゃなくなったのが、こんなに堪えるなんて…。

私は三雲君が好き。
でもヒーローな彼は困っている人のことしか見えてなくて、
いつも真っ直ぐで…だから、
その隅にある私の恋心には気づかないんだ。


20150330


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