風間蒼也
風立ちぬ


※リクエスト作品です。
※太刀川に対する扱いが酷いです。


うちの隊長はとにかくかっこいい。
小柄なのにも関わらず攻撃手2位。
A級3位の隊長を務めていてとても強い。
大学に行っているけど勉学を疎かにするわけでもなく、
常に上位の成績。
厳しいけどその分人のこともちゃんと見てくれて、
ちゃんと評価してくれる。
辛辣な言葉を平気で使うけど、
それにはちゃんと意味がある(理解するのが難しい時もあるけど)。
面倒見が良くて、仕事もできる…まさに完璧な人だった。
欠点をあげればその小柄な体格だけど、
今ではそれも隊長のチャームポイントだと思う!!

これは風間隊の一隊員である神威アキが風間に対して想っていることだ。
…つまり総合すると、風間さんはかっこいいのだ。
そんな風間隊の一員なんだから、
力になれるように頑張ろうと思っているのはアキだけではない。
チームメイトの歌川や菊地原やオペレーターである三上も思っている。
皆風間やチームメイトのため、力を身につけているし、
今日だって遠征から帰ってきて久々の防衛任務だったのだ。
仕事なのは分かっているけど、凄く楽しくしていたのだ。
少なくともアキはす・ご・くと強調するくらいに楽しみにしていた。
なのに来てみればそこには風間がいない…。

「風間さん、いないんだけどなんで?」

こういう時の原因ははっきりしている。
アキの隣で菊地原が呟いた。

「また?もういい加減にしてほしいんだけど」

…全くをもってその通りだと思った。




風間隊、隊室。
またの名を執務室。
…A級にもなると、防衛任務の他にも事務的な仕事だってある。
書類に目を通すだけではなく、作成したり…
風間はこちらの方も優秀らしくて、
全部隊長のミーティングでの資料作りやら、
防衛隊員の総力をあげるための合同訓練の計画やら、いろいろしている。
勿論、風間は日頃からちゃんとやっているから仕事を溜め込むことはない。
この部屋に書類が積み上がることも本来ならあり得ないのだ。
…あり得ないのだが、
たまに何事かと言わんばかりに積み上がっていることがある。
原因は某隊長が書類にアレルギー反応を起こして手につかないとか、
某隊長が書類よりも優先にしなければいけない仕事があると言ってランク戦していたりとか、
某隊長が大学の単位がやばくて仕事どころではないとか、
ぶっちゃけるとA級一位の隊長が主な原因だ。
風間だって同じ状況のはずなのに、
そのA級一位の隊長の太刀川の面倒を見る羽目になるのだ。
で、そういう時はこうやってこの部屋に書類が積み上がる。
ただ今回はいつもよりも相当酷いらしくて、
太刀川の勉強を見るだけでなく、
太刀川が溜め込んでいた書類も回ってきた。
他の隊長はどうした!?と言いたくなるけど、
高校生、大学生組は同じくテスト期間でそちらの方へ。
流石に高校生に大人の後始末をさせるわけにもいかず、
太刀川と同い年である加古が少し、仕事を貰ってくれた。
嵐山はテスト期間にもかかわらず広報の仕事があるのでそちらの方を…
冬島はエンジニアの仕事の方も掛け持っていて…等、
理由をあげればきりがないが、
結果、風間の負荷が一番多い。

アキは積み上がっている書類の山を見た。
いつもなら分類分けされているのに、今回は無造作だ。
よっぽど切羽詰まっているに違いなかった。

「お前たちはもう帰れ」

太刀川に張り込み、鬼の形相で勉強をさせていたのはつい先程だ。
いい時間になったので一旦そちらを切り上げて部屋に戻ってきた途端この一言。
確かにアキ達は高校生なので仕方ないのだが。
「風間さんも一緒に帰りませんか」
「俺は仕事をやってから帰る」
この返事も風間隊、全員分かっていた。
仕事に責任もプライドも持っている。
何か手伝いたいことがあっても、彼等が手伝えることなんて限られている。


そして翌日。

部屋は昨日と変わらない書類の山。
今日の太刀川の監視は違う人がやるみたいで、
その分楽にはなっているはず、だった。
しかしよく見ると…今回はいつもより酷い。
なぜなら、書類の山が昨日よりも増えているのだ。
考えてみれば、風間だってテスト期間なんだ。
家に帰って勉強しているはずだ。
…そうするためには睡眠時間を削るしかないわけで……。
つまり満足に休めていない。
そんなんじゃ、仕事の効率だって下がるし、
何より風間の体調が悪くなる。
せめて息抜きだけでもしてくれれば…と考えるのは自然の道理であろう。

「風間さん、ちゃんと休んでいますか?」
「休んでいる。心配するな」

嘘だと思った。
いや、正確には風間にとっては一応休んではいるのだろう。
だけど身体はその休息だけじゃ足りないのではないか。
本人は気づいていないのか。
そんなはずはないだろう。
いつもなら上手くかわす風間だが、それができていないことに気付いているだろうか。
それとも分かっていて押し通すつもりなのか。
単純に頭が働いていないかもしれないが。

「少しくらい休みましょうよー。
あ、そうだ!私、ジュース買って来たんです!
期間限定でキャップにネームが入ってるんです。
皆の分見つけるの苦労したんですよー!」
そう言ってアキは風間にペットボトルを渡す。
受け取りはしたものの風間は開けようとはしない。
何故だと首を傾げるとその様子を見て溜息をつく。
「その手には乗らない。
前回も炭酸飲料だと知っていてわざと振ったものを俺に渡しただろう」
「あ―…」
確かに、そんなこともあった。
だってあの時は風間さんが構ってくれなかったからつまらなかったんだと心の中でアキは言い訳をする。
「その前は休憩に甘いものでもと進めておいて
塩入りココアを持ってきたな」
「う」
あれは太一の隊長自慢で出てきたからちょっと試してみただけで―…。
とぼそぼそ言うが聞いていない。
「他にもいろいろあるが、
俺はお前から何も受け取らない」
単純に今は忙しいから帰れ。
空気を読めと言われている。
…それは分かっているが、引くに引けないというか…
何かがアキを押しとどめる。
「じゃー今できた書類を届けに行ってくるので、
私が帰ってくるまで休んでてください」
「分かった。休むから持って行ってくれ」
アキは風間から書類を受け取った。
だけど、絶対この人は休まず作業をするのは目に見えて分かっていた。
こういう時真面目な人は手の抜き方を知らないのだ。
しかも高性能なだけあって、
なんでもこなしてしまうからこそ、彼は自分でなんでもやってしまうのだろう。
…自由気ままな大人達にも原因はあるが。

アキは気に入らないと頬を膨らませるが、
風間はもう取り合う気はないらしい。
目線は書類の方を見ていた。
窓がカタカタ揺れる。
そういえば今日は風が強かったなと思い出す。
「そうだ、せめて空気の入れ替えだけでもしましょう!
そうしましょう!!」
風間の返事を待たずにアキは勢いよく窓を開けた。
すると突風が押し寄せる。
問答無用で風は書類を連れて舞い上がる。
ヒラヒラ舞う書類はパレードとかでやる紙吹雪みたいで見ていて楽しい。
そして、その光景に珍しく風間がぽかーんと口を開けていた。
その顔を見てアキはゲラゲラ笑い出す。
「あはは、か、風間さんその顔をかわ……
最高にいいと思います!」
可愛いと言いそうになったのを無理矢理訂正する。
風間は普段からあまり表情が変わらない。
この表情は初めて見る。
こんな顔もするんだ〜と新しい発見に胸が躍る。
これだから風間さんにちょっかい出したくなるのだ。と、
アキは悪戯が成功した子供みたいに(高校生だって子供だが)笑う。

風間も呆然としていたが、我に返ったらしい。
先程まであまり回っていなかった頭が急に回転し始める。
「なんかスカッとしますね」
「…お前は状況を理解しているのか?」
「してます!
これは片付けるの大変ですね。
罰として片付けしまーす」
「当然だ」

「失礼しま…あ」

部屋に入ってきたのは三上だ。
三上は目の前の惨劇を見て、思考が停止した。
恐らくこれが普通の人の反応だ。
アキは三上と目が合う。
三上はどうしてこうなったのか状況を察したらしい。
風間がこちらを見ていないことをいいことに
小さくブイサイン。
「アキちゃん…」
三上が呆れる。
それを勘違いしたのか、
風間は三上に手伝うなよと口添えする。
やはり書類が散乱している原因はアキにあると分かるとしょうがないと苦笑する。
「分かりました。
それではアキちゃんが片付け終わったら呼びますので、
風間さんはそれまで休んでて下さい」
確かにこの短時間でやれることはないなと考えて風間は素直に了承する。
風間が仮眠室に入ったのをちゃんと見届けてから、
三上とアキは笑い合う。

それを合図に部屋に歌川、そして菊地原が入ってきた。

「神威、やりすぎだ」
「だって風間さん引っかかってくれないんだもん」
「それ、日頃から神威が悪さしているからでしょ」
「菊地原うるさい!
…それよりも、みかみか先輩!
私、ゆっくり片付けるのでよろしくです!!」
この一連のやり取りで察するとは思うが
これは風間隊全員が風間に休んでもらうために仕組んだものだ。
そのきっかけ作りを担当したのがあの風間に向かって数々のいたずらを仕掛けたことがあるアキが受け持った。
その内容は全て彼女に一任しているので、
歌川達はどんなことが起こるのかはその時のお楽しみという奴だったが、
無事に成功したようだ。
書類を部屋中に散らかすという大惨事を起こしたものの、
元々彼等は書類の整理をする予定だったので問題はあまりなかった。
「うわーこれ、うちの隊じゃない奴も混じってるんだけど」
「とりあえず分類分けからだな。
それから自分達ができるとこまではやっておいて風間さんが確認で済むとこまで持っていこう」
「お、これは…極秘!?」
「神威五月蝿い。
今、風間さん仮眠に入ったみたいだから静かにしてくれる?
あとそれはこっちに置いてて」
菊地原のサイドエフェクトの精度が上がっている。
息遣いで寝ているかどうかまで分かるのか…!とアキは純粋に驚いた。
素直に休憩してくれているようなので、
皆、黙々と作業をしていく。
とりあえず仕分けして期日順に並べて、
書類を整理していく。
「この書類できてるから持って行って…
途中で起きたら困るからこのままにして、行ってきます!」
アキの言葉に皆頷く。
「あ」
突然思い出したかのようにアキは振り向いた。
「それより、皆の分のジュースあるんだけど、
息抜きにどう?」

「「「いらない」」」

皆見事にハモった。
ジュースとは風間宛ての差し入れ用で、
疑われないように本当に全員分持ってきていた。
勿論中身は炭酸で…想像するのは難くない。
皆で開けてドッキリってやつだ。
ちぇーと言いながらも無理矢理ジュースを渡し、
アキは部屋を出て行く。
分かっていても受け取るあたり、三人ともアキの気持ちは汲んでいた。


「……」

風間が目を覚ましたのは予定よりも遅かった。
何の音沙汰もないので仮眠室から出てみれば、
気持ちのいいくらいに部屋が片付かれていた。
書類も、アキの悪戯でバラバラにされる前に比べてもきれいにされている。
そのうちの一枚をとってみれば、
内容がきちんとまとめられ、
貼られてある付箋にはどの資料を参照にすればいいのか書いてある。
一連の流れで予想はしていたが、ここまでやるとは想定外だった。

「おはようございます、風間さん」
「三上か。終わったら呼べと言ったはずだが」
「すみません。一度起こそうとしたのですが…
風間さん随分お疲れだったみたいなので」
三上の言葉に反論はできない。
現に自分の身体は自分が思う以上に休息を必要としていたらしい。
ここまで自分で起きれなかったのがいい証拠だ。
「皆、帰ったのか?」
全てを把握した上で風間は言う。
三上はそれに答える。
「歌川君と菊地原君は逃げ出してきた太刀川さんを捕まえて本部長のところに直談判しに行ってます」
「歌川もか…珍しいな」
「それだけ皆風間さんのことが好きなんですよ」
「神威は?」
今回の主犯はどこだと問い詰めれば、怒らないでくださいねと言葉を添えて三上は答える。
アキは風間が書類整理していた机にうつ伏せになって寝ていた。
周りに積み上げられた書類がバリケードになっていて見えなかった。
突っ伏しても書類が崩れないように計算して置いたらしい。
その検証だと言ってアキが突っ伏してそのまま眠りに落ちたのは実に早かった。
慣れない書類整理に大分神経を使ったようだ。
「書類を散らかしたことには責任を感じてるみたいですよ?」
「そうか」
風間はくしゃっとアキの頭を撫でる。
その様子は書類のバリケードのおかげで三上には見えていない。
これ以上は無理だなとため息をつく。
「今日は帰る。
…久しぶりに皆で飯でも食いに行くか」
「分かりました。歌川君達呼んできますね」
音をたてないように、三上が静かに部屋から出て行く。
それを見送って風間は空気を一変させる。

「で、いつまで狸寝入りしているつもりだ」
「……えっと…その―…」

風間が無言でさっさと起きろと言っているが、
こればかりは聞くわけにはいかないとアキは机に突っ伏したままだ。
「だって今日は皆とご飯ですよね?
皆来るまでここを動きません――!!」
「子供か」
「高校生は子供ですよー」
いつもならここで頭に軽く拳が飛んでくるのだが、
周りのバリケードが崩れるのでそれはしないようだ。
「と、とりあえず、風間さんは皆が来るまでソファに座ってのんびりしておいてください!
皆が来るまではここをどきませんっ!」
「…今度からはお前よりも早く座るか」
どうやら風間は諦めたらしい。
アキからそっと離れる。
それにアキはほっと胸を撫で下ろした。

――頭、撫でてくれた!!

それだけで心臓がバクバク言っているのだ。
身体だって熱いし、今はまだ面と向き合うことができない。
皆が来るまでに落ち着かなくちゃと静かに深呼吸する。

「神威」
「…はい?」
「首が赤かったが、熱でもあるのか?
…お前は早く帰った方がいいかもしれないな」

突然の爆弾発言に思わず顔を上げてしまった。
そこにはソファに座りに行ったはずの風間がいるわけで…
珍しくしてやったりという顔でこちらを見ている。

嵌められた。
完璧に嵌められたのだ。


「…風間さんのばか〜〜〜!!」



「これに懲りたら悪さはするな」
風間の声なんて聞こえていない。
アキは風間の顔をじっと見るがいつもの顔に戻っていて読めない。

――つまりこれは気持ちがバレたの!?
それともからかっただけなの!?どっち!!??

風間のことだ。
皆と一緒にご飯に連れて行ってやらないという言葉にアキが反応したと思ったに違いない。
色恋沙汰は聞いたことがないし、
そもそもそっち方面は鈍そうだと考えて無理矢理納得した。
「風間さんのばか」
「二度も言うな」
わざとぶすっと頬を膨らませてアキは立ち上がる。
「とりあえず、ジュース飲んで皆待ちましょう」
「…お前のは開けないからな」
「どーしてですか!!」
今はまだ、伝わるのが恥ずかしいからこれでいいやと思うアキ。
またいつものやり取りに戻ってちょっとだけほっとする。

カタカタ…

窓が揺れている。
どうやら風はまだ吹いているようだ。


20150519


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