辻新之助
無自覚な彼の場合
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ボーダーには各ポジション毎に合同訓練と呼ばれるものがある。
勿論そのポジションの底上げが目的だ。
今回は連携の練習だった。
攻撃手で連携が上手いのは風間隊、東隊が代名詞になっている。
攻撃手同士の連携はそれだけ難しいものだが、
状況によっては部隊で行動できない可能性がある。
そのため、今回の合同訓練はランダムで決められた隊員同士がチームを組んで行うものだった。
アキはどこの隊にも所属していないため、
連携どころか、チームとして動く事にも慣れていなかったので凄く不安だった。
だけど今回のチームで同級生でしかも現役で隊に所属している辻、熊谷と同じチームだったので少しだけほっと胸を撫で下ろした。
アキはソロで活動していることもあり、
専らサシでの勝負に力を入れていたが、先の大規模侵攻でそれだけではいけない事を実感していた。
だからこそ、この訓練に何か得なきゃと気合を入れていた。
意識すると逆に動きが悪くなるからまずはいつも通り好きに動いていいよと熊谷に言われ、
しゅん…としたのはもう三十分も前の事だった。
アキは目の前の相手に集中して斬り合っていた。
刀を受け止め、弾き飛ばし、斬ったところで、
斜め後ろから向こうのチームの人間がアキに向かって剣を振り下ろす。
それを認識した時にはアキは対処する事は不可能だった。
…が、まるで来るのが分かっていたかのように、
辻が横から建物ごと敵を斬った。
絶妙なタイミングだった。
おかげでアキは命拾いした。
その間、熊谷がもう一人を倒したところで、この訓練は終了となった。
「辻くん、さっきはありがとう」
訓練が終わって、アキは辻にお礼を言った。
目の前の相手に集中するあまり、周りが見えなくなるのはアキの悪い癖だった。
「別にこれくらい、大したことはない」
「そんな事ないよ!おかげで助かったし」
「確かに絶妙なタイミングだったよね辻、フォロー上手すぎ。
私もあんなにいいタイミングでできないし」
熊谷も会話に入ってきて、先程の訓練の内容を思い出す。
自分のチームの連携だったらどうだろうか。
自分のフォローに日浦が狙撃をしてくれたり、
逆に自分を囮にして、那須や日浦が落とす先方が多い。
熊谷自身、フォローする機会はそんなにないため素直に感心する。
今回の訓練の有難味がよく分かる。
周りに視野を入れるようにするのはこれから意識して改善するしかないが、
仲間のフォローに入るコツとかあれば知りたいとアキは思った。
「どうすれば連携がよくなるかな」
「ずっと見ていれば分かるだろう」
「え?」
アキは頭の中で辻の言葉を何度も繰り返す。
――ずっと見ていれば分かる?
ずっと見ていたの?
なんだか急に恥ずかしくなったアキは、
身体が熱くなったのを感じた。
それが余計に恥ずかしく感じて更に体温が上昇する。
その様子を目の辺りにして熊谷はあ―…と頬を掻きながら若干居心地の悪さを感じていた。
二人とも辻にそんな甘酸っぱい想いがあって言ったのではなく、
真面目に戦い方の話をしている事は分かっている。
分かっているが、アキのソロランクは中の中だ。
そんな自分がマスタークラスの人間に注視される程の戦い方をしているとは思えない。
どちらかというと目も当てられないくらい悪い癖がついてて、
黙っていられなかったとか……?
それくらいしか思いつかなかった。
そう考えると急に不安になってくる。
アキは顔を真っ青にした。
「私何か悪いとこあった!?」
「?」
急に詰め寄ってくるアキに何故そういう話になったのか理解できない辻は不思議そうな顔でアキを見た。
それとは反対に熊谷はアキの心中を察したらしい。
助け船を出すつもりで言う。
「辻、ちゃんとはっきり言わないと分からないよ」
「何をだ?」
「見ていれば分かるのくだり」
「あぁ…言った通りの意味なんだけど」
相手の動きや癖、考え方、性格…それらを総合してどう動くのか考えて、
そこから自分がどう動けば最善なのか考えて動くと大体上手くいくと伝えた。
「そこまで考えるの!?
…辻くんって凄いね」
「別に」
他の人間はどうか分からないが、辻の場合はそうだったというだけだ。
何せ自分の隊には好き勝手動く先輩がいる。
寧ろそうならざるを得なかったといってもいいのかもしれない。
「アキー、これから防衛任務だけど行けそう?」
「うん、今行く!!
熊ちゃん、辻くん、私行くね」
「ああ、気を付けて行っておいで」
「ありがとう!」
バタバタと走っていくアキを見送り、
熊谷はにやりと口角を上げる。
「それでー?
辻はどうしてアキの動きが分かるわけ?」
熊谷の言葉を聞いて、
今日は同じようなやり取りを何度も繰り返すなと思いながらも辻は答える。
「だから観察していれば推測ぐらい立てられるだろう」
「まーそうだけどさ…でも観察するだけで連携できれば皆できてるでしょ。
敵と対峙する時の対応と違って、
仲間と呼吸を合わせて動くのって難しいって思ってね」
「だから何だ」
「辻って本当マイペースというかなんというか…ま、いいけどさ」
熊谷は自己完結させた。
これから次のランク戦について隊室でミーティングがあるらしい。
そっちの方に行くからと一方的に告げられ去っていく。
勝手に自己完結され、残された辻としては意味が分からなかったが、
とりあえず自分も次のランク戦でミーティングがあったのを思い出し、
自分の隊室に向かった。
20151123
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