クリスマスの過ごし方
クリスマスから始まる


今日はクラスの皆…暇な人が集まってのクリスマスだった。
カラオケ、フリータイムで飲み放題付き。
もともと人見知りで、大勢の中にいる事が苦手なアキにとって、
クラス皆の集まりに参加するのは勇気がいる事だった。
できれば仲のいい子だけで集まってワイワイする方が楽しいし、
有意義に過ごせるという考えを持つくらいだ。
いつもなら不参加なのだが、
今年は参加する理由があった。

独り身だし、一人で行くのは寂しいから一緒に行こうぜという友達の付き添い。
…というのは建前で、
本当は気になっている男子が参加する事を知ったからだ。
冬休みが始まって二週間全く会えないアキにとって、
このクラスでの集まりは大変な意味を持っていた。
多くは望まないから一日でも多く会えるなら…そう考えて行動したのは、
アキにとって大胆な行動と言ってもいいのかもしれない。

「あーもうジュースなくなっちまった。
追加しようぜ」
「槍バカ飲みすぎだって」
「別にいいじゃん飲み放題だし、飲まねー方が損じゃん。
って事で俺、コーラで」
「へいへい。神威さんは何にする?」
「え、あ…私は烏龍茶で……」

急に声を掛けられ、アキは心臓が飛び出るかと思った。
それでもちゃんと返事ができただけ上出来だった。
(出水くんがいる…!
ど、どうしよう……)
アキはマイクを持っている人の歌声を聞いたふりをして誤魔化す。
出水に話しかけられて心臓が飛び出そうになったのは本当だが、
それ以前に出水を見たり、話したりするだけでもドキドキしてしまう。
つまるところ、アキは出水に恋をしていた。
今日こそは何か話そうと口を開くが、
何を話していいのか分からず、結局話し掛けられず…いつも見ているだけになる。
出水はボーダーに所属していて、
学校も特別早退・欠席をしたりするから、
登校しても毎日必ず会えるとは限らない…先日もボーダーの任務で一週間近く顔が見れず、
そのまま終業式を迎えての今日だ。
会えたことだけに満足せずに…!と思うのだが緊張して中々身体は動かなかった。
自分の情けなさにがっかりする。
しかも緊張しすぎて疲れてしまい……二重の意味でがっかりした。

アキは心落ち着かせようと部屋を出てロビーの椅子に座っていた。
折角楽しみにしていたのに…それを台無しにしたのは他でもない自分自身だ。
はぁ…と小さく溜息をついた。

「神威さん、具合悪いの?」

落ち着きを取り戻していた心臓が再びざわつく。
どうしてここに出水がいるのかと聞けば、トイレとだけ返ってきたので、
そのままスルーする事にした。
なんと言えばいいのか分からなかったからだ。
すると必然的に話は戻るので、そのまま「大丈夫だよ」とだけ答えた。

「ならいいけど。でも神威さん、
あんまりこういうの参加するイメージないから少し驚いた」
「やっぱりそう思う?…私、人が多いところあんまり得意じゃないから」
「じゃあ、今日はどうしたんだ?」
「友達が一人で参加するのは寂しいって」
「あー確かに、今日暇人ってことは相手いないって公言するようなもんだし、
友達いねーとちょっと…って思う奴いるかもな」

苦笑する出水にアキもつられて小さく笑う。

「そういえばそうだね。…すっかり忘れてたよ」
「そうなの?」
「だって……」

出水に会いたいばかりで、本来の趣旨を忘れていたなんて、
告白と同義だ。

そんな事を考えてアキは気付く。
普通に会話ができている事に対しての驚き。
自分は何を言おうとしていたのかという事に対しての恥ずかしさ。
一緒にいれて嬉しいと思う気持ち。
アキの脳内は大パニックだった。
言い淀んだアキに気にならない方がおかしいだろう。
出水がどうしたのと聞く。
それに言っていいものかと考えるが答えは分からない。
言って引かれたら嫌だと思う自分と、
伝えてしまいたいと思う自分がずっと脳内で抗争していた。
でも今日はここまで来たのだ。
だったら勇気は最後まで振り絞って出すべきだと伝えたい自分の欲求が勝ったらしい。
アキは頑張って言おうと口を開いた。

「冬休みは学校ないし、友達もおばあちゃんの家に行くって言ってたし……会えなくて寂しいなって…」

アキの中では「出水くんに会いたかった」って言おうとして出た言葉がこれだ。
肝心な事は言えていない……しかも、言わなくてもいい事を言っている。
自分のチキンっぷりに涙が出そうだ。
これ以上何かしゃべると醜態を晒しそうなので帰っちゃおうかなとか考え始めていた。
マイナス思考もここまで行くと開き直って、ある意味潔いのかもしれない。

「やっぱり疲れたから帰ろうかな……」
「じゃあ俺、途中まで送るよ」
「それは悪いよ!」
「気にするなって。俺、皆に言ってくるわ」

言うと出水は部屋へ行く。
「うっさい槍バカ」とかそんな声が聞こえた。
出水と米屋はよくお互いをそう言ってじゃれ合っているので、
いつものように言い合っていたのだろう。
部屋から出てきた出水の顔は少し赤らめていた。
アキは申し訳なさでいっぱい…の前に緊張でどうにかなってしまいそうで、
正直、何を話しながらここまで歩いていたのかあんまり覚えていなかった。
気付いたら三門市商店街で、どこもクリスマス一色の装飾になっていて、
あらためて見ると綺麗だねとかそんな話をしていると今気づいたくらいだ。

「今年もここのツリー綺麗だね」
「ああ…綺麗だな」

出水のその言葉に嬉しくなってアキは出水の方を振り向いた。
視線が少しあって、
出水はふいと目を逸らした。
どうしたのだろうかとアキは首を傾げた。

「さっきの話だけどさー…」
「さっきの話?」
「冬休み寂しいってやつ」
「あ、う、うん…」
「折角だし、連絡先交換しね?」
「え?」
「友達と遊べないのつまんないんだろ?
…俺も任務とかなかったら暇だしさ。
嫌ならいいけど」
「い、嫌じゃないよ…!」
「はは、そんな必死に言わなくても…スゲー顔真っ赤」

出水が笑う。
それを見てアキもつられて笑った。
きっと他の人が見たらどうでもいいことなのかもしれないけど、
アキにとってはこの瞬間がとてもキラキラしていて、
忘れられないシーンになった。

(メアド大切にしよう!)

…その時のちょっとばかりずれた思考も含めて――。


20151221


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