奈良坂透
これからもずっと


「アキ、今度の土曜日なんだが…」
「いいよ。じゃあ十時で」
「ああ、それで頼む」

ミーティングあるからと言って手を振るアキに奈良坂は優しい笑みを浮かべて見送った。
これで彼らの会話は終了らしい。
待ち合わせ…恐らくデートなんだろうが、
隣で聞いていた米屋、三輪は不思議そうな顔をした。
奈良坂やアキの顔を見ても関係は良好だ。
…いや、デートの約束をするくらいだから仲がいいのは明白だ。
それにしては、会話が短くないだろうかと思った次第である。

「な、今デートの約束だよな?」
「そうだな。それがどうかしたか?」

照れもせず平然と言ってのけた奈良坂に呆れを通り越して感心さえする。
だが、自分たちが知る限り奈良坂という男は真面目だし、
デートもしっかりスケジュールを立てそうなイメージだ。
少なくても普通はもう少し目的と計画を持ってやるのではないだろうか。
米屋だって映画見たいから◯時集合なくらいの事は言う。
いくら仲がいいからって…彼らは何をするのだろうかと単純な疑問を持ったらしい。
その疑問に奈良坂は答えた。

「ホワイトデーのプレゼントを買いに」
「分かんねーよ。ってか、彼女と一緒に買うのかよ」
「ああ」

それでいいのかよと突っ込みたくなるがしょうがない。
どうして米屋達がそんな反応をするのか分からない奈良坂は疑問でしかない。



「――という事があった」

ショッピングモールを歩きながら言われた言葉にアキは笑って聞いていた。

「相変わらず、透のチームメイトは楽しい人だね」
「そうだな、アレでもう少し勉強すればな」
「透の負担は減りそうだよね」
「まったくだ」
「あ、ここだよ」

言うとアキは奈良坂の手を引っ張って止める。
今日のデートは少し早いがホワイトデーのデートであり、
それを楽しみながら奈良坂のバレンタインのお返しを買いにきている。
義理チョコのお返しは後回しで、
目下の目的は、彼の弟子である日浦へのプレゼントと従姉妹の那須のものである。
奈良坂にとって大切な人達だ。
アキにとって元々大事な友人、後輩だったが、二重の意味で大切な人になった。
そんな彼女らへの贈り物は一緒に選びたいというのがアキの心境だ。
今日という日をすごく楽しみにしていたらしい。
いつもより少し上機嫌だ。
女心があまり理解できない奈良坂にとって、
毎年頭を悩ませる行事の一つであったホワイトデーも、
アキのおかげで少し楽になった。
自分の視点と女性の視点とではこんなにも違いがあるのかと驚かされる事もあり、
それと同時に彼女の好きなものが分かるのだから楽しいことこの上なし。
逆もまた然りだ。
他人から見れば相手が不機嫌になったりやきもちを妬きそうだと言ったり、
心配の声が上がってくるが、
何かあってもなくても一緒に過ごすのが当たり前になっている二人にとって、
その次元は当に過ぎていた。

奈良坂は目の前にあるお菓子を持った猫のぬいぐるみを手にする。

「茜ちゃんにはこの子かな。
愛嬌あるし、白猫に紫のリボン…なんか那須隊の隊服みたいだし」

どうしてと聞く前に答えられてしまった。
この辺りは自分の事をよく解っているなと実感する部分だ。

「じゃあコレは…」
「玲ちゃんの適当すぎだよ。
去年も言われなかったっけ?『透くんから愛を感じないわ』って」
「玲は別にいい」
「従姉妹だからって……今年も言われても知らないよ」

そう言いながら那須へのプレゼントを選んでいるアキを横目に奈良坂はこの場を離れる。
少しは真面目に考えようとしたのか…。
そう思ったアキは那須へのプレゼントを探す。

「アキはコレだな」

奈良坂が戻ってきた。
手渡された髪飾りを見てアキは目を輝かせる。
自分の好みど真ん中のデザインらしい。
それに喜ぶなというのが難しい話だ。

「透は私の事解ってるよね!」

その言葉に奈良坂は笑う。
何故笑われるのかと首を傾げるアキに奈良坂は言う。

「先程、俺も同じこと思った」
「そっか」
「「この後お茶だな(ね)」」

揃った声に満足したのか二人して笑い合った――。


20160312


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