時枝充
短冊に込めた想い


民間人の認識するとこのボーダー隊員。
…といえば、嵐山隊であり、アイドルのそれと同じだ。

アキはアイドルが好きな今時の女の子であり、
ヒーローとして名だたるボーダーの嵐山隊も大好きだ。
特に隊長である嵐山の爽やかな笑顔とかお兄ちゃんがいたらこんな感じかなーなんて、
夢見るくらいに好きだ。
ボーダーに入隊したきっかけも正直、嵐山隊目当てだったといっても過言ではない。
それくらい好きだった。

だけどボーダーとして活動するようになってから、
夢を見なくなった…違う。
彼らをアイドルとしては見なくなった。
ボーダー隊員として尊敬する先輩という風に意識が変わっていった。
そして、嵐山隊の時枝を別の意味で意識したのは、
正隊員になって伸び悩んだ時だった。
特に仲が良かった訳でもない。
話を聞いてくれるだけでなく、
アドバイスしてくれて…そこから一歩前進した時は嬉しくて、時枝に報告にいった。
その話も嫌な顔一つせず聞いてくれ、
「良かったね」と言ってくれたり、ご褒美にジュースを奢ってもらったり、
その時の頬笑みが忘れられなくなった。
それから時枝の姿を見付ける事が多くなった。
時枝は特に目立った行動をするわけではなく、
嵐山隊の中でもサポート役に徹している。
日常生活…といってもアキが知っているのはボーダーにいる時の時枝のみだが、
戦闘に関わらなくても、
同学年の先輩達のフォローをしていたり、
調和をとっていた。
そんな風に周りを見て、気遣いが出来る時枝は、
自分とは一つ違うだけのはずなのに凄く大人に見えた。
そしてまだまだ子供な自分に不満を持った。
もっと話したい、どうすれば近づけるのか…真剣に考えていたアキは、
この時点で既に恋をしていた。
自覚しても、ボーダー以外で接点はなく、
どうする事もできないのだが…。



「神威さん」
「時枝先輩!?」

急に声を掛けられて驚いたアキはいつもよりも大きな声が出た。
それに対して恥ずかしいと思うよりも、
時枝に話しかけられただけでアキは嬉しくて仕方がなかった。

「ど、どうしたんですか?」
「うん、ボーダーで七夕やる事になったからね。
笹にただ飾りつけするだけじゃ味気ないし、
折角だから短冊を配って願い事を書いてもらおうという事になったんだ」

口ぶりから察するに時枝の案ではないのは明白だ。
では誰の案なのか…なんて事はこの際どうでもよくて、
久しぶりできた接点にアキはドキドキしていた。

「だから神威さんも是非」

そういって渡された短冊。
ただの紙のはずなのに、
凄くいいものを貰った気がして笹に飾らず大切にしまっておきたいくらいだ。

「笹はどこにあるんですか?」
「ラウンジのところに。
良かったら見てみる?」

貴重なお誘いを断ることなどできず、
アキは元気よく頷いた。

ラウンジに行くと笹は分かりやすいところに置いてあった。
既にいろんな飾り付けがされていて、
ちらほら短冊もつけられていた。
アキは見上げる。
短冊には各々の願いが書かれていた。


『世界が平和でありますように』
『追試になりませんように』
『正隊員になる』
『強い奴と戦いたい』
『彼女が欲しい』
課題がなくなりますように自分でやれ』


「皆、いろいろ書いてますね」
「願望を持つのは自由だからね。
気楽に書いてみたらどうかな」
「は、はい!」

短冊を握る手に力が入っているのを見て、
何を書こうか悩んでいる様に見えたらしい。
慌てて手の力を抜く。
時枝の顔を見て…
アキが短冊に書く願い事は決まっていた。

年齢も違えば、学校も違う。
ボーダーでチームも違うし実力も違う。
違う事ばかりだけど、
少しでも近付きたいという気持ちは変わらない。
ボーダーだけでなく、
日常生活の中で、少しでも長い時間時枝と一緒にいたかった。

「先輩書きました!」

言うとアキはどこに吊るそうか決めたのか、
上を見上げて背伸びする。

「つけるよ」
「あ、ありがとうございます!!」

時枝はアキの短冊を受け取る。

「ここでいいのかな」
「できるだけ上の方がいいです。
目標なので」

アキの言葉通り、
時枝はできるだけ上の方に短冊をつける。
それを一緒に見守るアキ。
笹に短冊を結びつけている時に、
短冊に書かれているアキの願いが時枝の目に入った。

「上を見るのもいいけど、たまには隣を見てもいいと思うよ」
「え?」

アキは時枝の方を振り向く。

「どういう事ですか?」
「ジュース奢るよ」

時枝にそう言われ、流された。
自動販売機の方に行く時枝の後を慌ててアキはついていく。


アキが短冊に書いたものは、
願い事というよりはたった一つの想い――…。




『      』


20160726


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