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彩花は公園に行った。
いつもなら既にある二人の姿が見当たらない。
もしかしたら今日はここに来るのが遅いだけなのかもしれない…。
暫くベンチに座って待っていたが、やってくる感じはしない。
こんな日もあるだろうと思って帰る事にした。
約束なんてしていない。
けれどここで会う事が日課になっていた彩花にとってこれは日常から離せない事になっていた。
そして次の日、また次の日と繰り返すと、
流石に避けられていると認めざるを得ない。
彼等はボーダーの玉狛支部に所属していると言っていた。
なら、マップ検索すれば支部に直接行く事が出来るだろう。
検索して道の確認までした。
しかしそこから一歩踏み出せなかったのは単純に怖かったからだ。
既に拒絶されているのにそこを押しかけるのは更に嫌われてしまうのではないだろうか。
そう考えてしまったらそこから動けなくなってしまった。
かわりに行くのは公園だ。
もう来ないだろうと思ってても向かわずにはいられなかった。
どうしてなのか分からない。
ただ、簡単に手放せないものになっていたとしかいえなかった。
「…けんけんぱ、けんぱ、けんぱ……」
聞いた事のある声に思わず彩花は駆け足になった。
「雷神丸ー!そこをどくのだぁ!!」
そこにいたのは陽太郎の姿だった。
「陽太郎くん!」
「よぉ彩花、ひさしぶりだな!」
「久しぶりだね、元気にしてた?」
「うむ、おれも雷神丸も元気だぞ」
「そっか。よかった…」
「どうしたんだ彩花?」
「ちょっと安心して…」
子供相手にへたり込むなんて情けないのかもしれない。
だけどその時、彩花はそんな事なんて考えてもいなかった。
よく分からないが陽太郎は彩花の元に駆け寄る。
「ヒュース君は…?」
「今日はぼうえいにんむだからな、
ヒュースはそっちの方に行ってるぞ。
そうだ!ヒュースからにんむをもらったのだ。
『おれはいそがしいからもうこうえんには行かんと言ってくれ』と言われた」
防衛任務ならそういう事もあるのかもしれない。
今まで、そういう事がなかった分、
実はこれは建前で、本当は避けているのではないかと思ってしまう。
そう考えると落ち込むしか選択肢がない。
「彩花どうした?雷神丸のおなかさわるか?」
「ありがとう…」
なんとなく触れてみるが温かい。
その温もりを感じ、逆に悲しくなってきた。
「ぬおぉぉ、彩花ぐあいがわるいのか?
かぜをぶりかえしたのか!?」
「ううん、違うよ」
「じゃあどこかいたむのか!?」
「痛くないよ。ただ…ヒュース君は私の事嫌いなのかなって」
「ヒュースは彩花のこと、きらいなんて言ってないぞ」
(でも、避けられている)
子供相手に何しているのだろうと彩花は思った。
でも頭の中でもんもんと考えるのは疲れたのだ。
溢れた感情はぽつぽつと彩花の口から漏れた。
「越えられないラインがあるの」
「らいん?」
「線。
自分の領域とそれ以外をわけるライン」
言うと彩花は木の棒を拾い、自分と陽太郎の間に線を書く。
「けんけんぱのしんかばんか!?」と言っている陽太郎は、
先程の遊びの続きだと思っているらしい。
そうだとなんだか可愛らしいなと彩花は思った。
「だったら良かったのかもね。
…そっちは陽太郎くんの領域でこっちが私の領域。
踏み込みたくても踏み込めない境界線がここにあるの。
私達だけじゃない。
お兄ちゃんにもヒュース君にもある…近くにいるはずなのに凄く遠いの」
「ちかいのにとおい…ナゾナゾか?」
「そう。この線を越えることはできない。
これ以上歩み寄る事が出来ないの」
彩花の言葉を陽太郎は黙って聞いている。
彩花が言う話が分からないのだろう。
口にしている自分も分かっててしゃべっているわけではない。
だが、言葉にする事で自分の気持ちがはっきりと分かってきた。
「寂しい…」
「彩花はさびしいのか?
ヒュースの言ってたとおりだな」
「え」
彩花は陽太郎の顔を見る。
「ひとりでいるのはさびしいから、
みんないっしょにいるんだってうちのボスが言ってたぞ。
だからたまこまはかぞくなんだって」
「……」
言うと陽太郎はまっすぐ彩花に向かって手を伸ばす。
その手は彩花の頭を触る。
まるで頭を撫でられているようだ。
「せんをこえなくてもおれは彩花にさわれる。
このきょりはとおくないぞ」
「……」
陽太郎の言葉に彩花は絶句した。
なんと言えばいいのか分からないが、
それは素直な言葉でなんだかしっくりくるものだった。
「遠くない…そうかもしれないね」
「うむ。それにヒュースは
『彩花はさびしがりやだからお前は行ってやれ』って言ってた。
だからおれが来たぞ」
彩花は陽太郎の手を掴む。
そしてそのまま抱き締めた。
「彩花はひとりじゃない。
このせんはとびこえるためにあるんだ。
おれはよくとんでつぎにすすむぞ」
「…陽太郎君、凄いね」
「けんけんぱはとくいだからな。彩花もやるか?」
「…うん」
小さい時は前に進むのを恐れなかった。
それがいつから進めなくなったのだろうか。
入れなくなってもせめて手を伸ばす事は許されるはずだ。
「…陽太郎君、私ヒュース君に逢いたい」
「ああ、ほんとうはヒュースもさびしがりやだからな」
「そうなんだ」
「ヒュースはすなおじゃないからな」
彩花は陽太郎の手をとり、立ちあがった。
20160613
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