華月と馬岱 0514

(もしも、)

雨音が耳に届く静まり返った室内にいるのは俺とお嬢の二人だけ。
俺はお嬢を抱き寄せていて、お嬢は俺に抱き締められて何も言葉が出ないようだ。
それはそうだ、この状況になる少し前まで俺とお嬢は今度の休暇に城下町に行こうと予定を立てていた。
それがいきなりこんな展開になったんだ、お嬢絶対思考パニックかフリーズでしょ。
俺はあえて何も言わずにお嬢の髪をゆっくりと撫でる、嗚呼なんて心地よい一時。
俺の心は高鳴る一方で鳴りやむことを知らない、お嬢の肩口に顔を埋めて小さく呟く。

「……ねぇ、お嬢」
「岱ちゃん、どうしたの…?」

どうしたの、とは俺の呟きに対してか、それともこの状況の事かと聞かれると両方の意味だろう。
俺は答えない、お嬢に答えを聞くまでは。

「俺がさ、愛してるっていったらお嬢はなんて答えてくれる?」
「え?」

いい終えてから沸き起こる後悔、言わなければよかったかな。こんなの俺らしくない、やめだやめ!

「…なーんてな!お嬢びっくりした?」

抱き締めていた腕を解き、笑みを浮かべていつも通り陽気な俺を演じる、そうすればお嬢もさっきの事は冗談だったんだと笑い飛ばしてくれる、はずなんだけど。

なんでお嬢は、笑ってないんだろ。俯いたまま俺の服の裾を握るお嬢の姿はいつも以上に小さく見えた。

「…お嬢?」

お嬢の小さな手の上に俺の手を重ねる。

「…岱ちゃんは冗談って言うと思うけど、私はずっと前から岱ちゃんの事が、好きだよ」

嘘、今の言葉は聞き間違えじゃなくて、本当にお嬢が、華月が言った…?今度は俺の思考がフリーズする番だった。

「それだけだからっ、じゃあ!」
「っ、待って華月!」

勢いよく立ち上がり俺の部屋から逃げるように去ろうとするお嬢を背後から抱き締めて引き止める。再び雨音だけが二人を包み込む。

「…さっきの、本当?」
「…嘘って言ったら?」
「俺泣いちゃうかも」
「泣かれるのはちょっと困るかも」
「でしょ?…だから、もう一回言って」
「岱ちゃんの馬鹿、…好き」
「俺も、愛してるよ」



貴方の願いが叶う時
(君は泣いているのかもしれない)



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