刹と誓 0626
「ごめん」
すれ違いぎわにチカが小さく呟いた声が耳に入った。聞き間違いかと思ったがそんな事はない、あんなチカの表情は一度も見たことがなかった。
「チカ、」
呼び止めるが俺の言葉はチカに届かず走り去っていく背中を見送るだけ。何かあったのか?あの表情といいいつもより様子が変だ。追い掛けようか迷ったその時、掛け足でやってきた奴が一人、親族会議で見覚えのある本家の野郎だ。幽閉の為に本家からも遠ざけられ隔離されたこんな場所に何故本家の野郎が?抱いた疑問を言う前に告げられた言葉。
"チカの一族から抹殺令"が本家から降った。
何が起きているのか、全くもって理解出来ていない。
「チカ!おめー、どういう…っ!」
乱雑に扉を開けると畳に座り込みぼんやりと窓から外を眺めているチカがいた、その姿が妙に儚くてこいつは本当に俺が知っているチカなのかと錯覚する程に。
「あぁ、刹だ」
やさしい声色で俺の名を呼び笑いかける。いつもと違う、何か。
「おめー、どういうことなんだよ…!」
自分の身に降り掛かっている出来事なのにチカはこんなにも落ち着いているんだ。
「本家の人から聞いただろ?俺の抹殺令」
「それが理解出来ねぇんだよ!おめーにそれが降る理由なんてこれっぽっちもねぇだろ!」
問い詰める俺を見透かしたのようなチカの視線。
「あるんだよ、それが」
何もかもを諦めたような投げ出したのかような笑み。
「俺、女なんだ」
チカが、女?嘘だ、俺をからかうための冗談か何かに決まってる。チカは男だ、俺が花山院家を継ぐようにチカも花京院家を継ぐんだろ?
「ごめんな、刹に嘘ついてた。お前とはお互い隠し事はなしだって約束してたのにな」
「…どういう、ことだよ」
「その通りの意味だ。花京院誓は女として生まれたが、本家を欺いてまで男として生きてきた。それも今日で全部終わり」
全部、本家に知られたんだ。
「今日まで世話になった、刹と一緒に過ごせて本当に楽しかったよ、ありがとう」
女として生まれたものはこの一族には必要のない存在、その意味はこういうことなのか?言いたい事も聞きたい事ほ山ほどあるというのに何一つ言葉にならない、俺の口から出てこない。
「バイバイ、刹」
はじめてみる、チカの涙がそこにあった。
category:うちのこ
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落乱