刹と誓 0627
気が付けば俺はチカの手を引き駆け出していた。うわずった声が俺の名を呼ぶ事すら気に留めずに屋敷内をやみくもに走る。見つけた、本家から遣い人として来ていた野郎を。
「おいおめー、俺とチカを本家に連れていけ。今すぐにだ!」
戸惑った顔を浮かべた野郎に反論される前に着物を引っ張り俺と視線を合わさせる。
「せ、刹様…、しかし」
「花山院刹の命令が聞けねぇのか」
「花京院誓に降った令が」
「早く本家に連れていけ!」
睨みをきかせると渋々にそいつは承認し一息をついた、繋いだ手からチカを見ると酷く青ざめた表情をしていた。
「刹、何を…」
「本家に行くんだよ、チカおめーもだ」
いいな?と言い聞かせると小さく頷くチカに笑顔はなかった。当たり前だ、抹殺令が降った直後に本家に行くと言いだしたんだ。チカにとっては自殺行為とも思える事を俺はしようとしているんだ。
久しぶりに訪れた本家、正直一生関わらなくていいのなら関わりたくもない所だ、やたらにデカい敷地とそこに佇む屋敷。池のある庭を抜け扉という名の門から屋敷内に入る。長い廊下を歩くとすれ違う人々から突き刺さるように向けられる視線と騒つき、俺と後ろを歩いているチカに向けられたモノだ。泣いているのだろうかと思った俺は後ろ目でチカを見たが周りの視線など気にせずにしっかりと前を見据えていた、覚悟を決めた瞳だった。安心しろ、おめーの覚悟は全部無駄にしてやらぁ。
啖呵をきったのは俺だった、殴られた頬とふっとんだ時に地面に倒れこんだ衝撃で身体が痛む。
「花山院家如きの分際で刃向かうとは己の立場を理解しているのか、花山院刹」
当主だろうが何だろうが何を言われようが屈する気はねぇ、キッと睨み付ける。
「チカは俺の友達だ!おめーらが降した令なんぞさせてたまるか!」
チカが女だから、男じゃないから。そんなのはどうでもいい、幽閉されていた俺に初めて出来た一人の友達を護りてぇだけだ。
「刹!もういい、もういいからやめろぉ!」
立ち上がろうとする俺を阻止するようにチカが腕を掴む、その手に手を重ね優しく振り払う。泣き顔なんざもう見たくない、おめーは馬鹿みてぇに笑ってろ、それが一番似合う。
「降された令は絶対だ、花山院刹」
「聞き分けのねぇ当主様だな…、それでもチカを一族から抹殺するってんなら俺もそれに乗っかってやらぁ。おめーらとは今後一切縁を切らせてもらう!」
それが俺の決断だった。チカを巻き込む事になってしまったが、抹殺令を阻止するにはこれしかなかった。
「縁を切る、だと…?本気で言っているのか」
「本気だ。俺は花山院家も継がねぇしおめーらと関わる気はねぇ!だからチカの令は阻止させてもらう」
震える手が腕を掴む。
「何…、言ってんだよ、刹。そんな事俺が許すわけねぇだろ!俺に降された令だ、いつかはこうなる事はわかっていたんだ、罰を受ける覚悟をしていたんだ!それを…、花山院家を継ぐ事が決まっているお前が、刹が!」
「チカ、黙ってろ」
それ以上何も言わなくてもわかる。花山院家を継ぐ必要がなくなるだけでチカも解放される、良いことばかりじゃねぇか。
「…決意は歪まぬか。ならば花山院刹、花京院誓に告ぐ。貴様達は今をもって一族と縁を切り存在をなかった事とする。即効に此処を出ていけ!」
これでいいんだ。やっと、俺もチカも何にも縛らるものはねぇ、自由に。
category:うちのこ
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