刹と誓 0628

強引にも当主との対談を切り上げた俺はチカの手を引き逃げ去るように本家を飛び出た。何一つ持たずにあるものは自分達の身だけだ。
本家へ通じる道ならわかる、だが幽閉されていた場所以外に外へ出たことがない俺にとって逃げ道はわかるはずもなく、ただやみくもに木々を掻き分けて獣道を走った。
静かな森に響くのは草木の音と呼吸音。

「せっ…、つ!待、って…!」

無我夢中で足を進めていたのか、自分の限界ともいえる体力は当に突破していた。チカの声に足を止めると膝から崩れ落ちた、額から大粒の汗が流れ落ちる。呼吸が苦しい、定まらない。それはチカも同じで地面に座り込み呼吸を荒くしていた。

「せ、つ…。お前、いくらなんでも…っ、走らせす…ぎ!」
「わ、りぃ…、っはぁ…」

お互い何も話さないまま何度も深呼吸をし数分、やっと落ち着いてきたと思える頃にチカが言葉を発した。

「さぁて刹、何処行こうか?」

予想外の一言だった。巻き込んだのは俺だ、勝手に縁を切ったのも俺だ。独断で全てを行ったというのに、普通なら怒るだろ。それなのにチカは笑みを浮かべていた。

「…おめー、怒ってねぇのか?」「はぁ?何でだよ、どこに怒る要素があるってんだよ?」

パンパンと着物についた草木を払い立ち上がったチカは一伸びをした。

「俺を連れ出してくれたのは刹だぜ?…むしろお前を巻き込む原因は俺だし、最後まで迷惑かけてごめんな」
「気にしてねぇよ、そんなもん。全部背負ってやらぁ」
「あははっ!刹ったらさすが男前ー!」

からかうように笑うチカの背中をばしんと一発叩く。こんな光景は久しぶりだ、今までは日常だったのに何時からかその日常が狂っていた。俺たちはお互いに顔を見合わせて笑っていた。

「外の世界ってすげーんだな!こんなに広いなんて、まだまだ俺が知らない事はいっぱいあるんだな!」
「おめーの小さい頭だと新しい事詰め込みすぎて爆発するかもな?」
「お前自分が優秀だからってさり気なくひどいこと言いやがって…」

小突いてくるチカの手を軽く払い除けて一息をつく。

「自由、だな」
「うん、自由」

俺達が求めていた自由がどれだけ甘い考えであったのかを知る事は、想像以上に早く訪れた。



category:うちのこ
タグ: 落乱


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