くくつづ 0918
例えば、好きな人はいるのかと問われたら間違いなく肯定する。その想いを伝えないのかと問われたら口ごもってしまう。
何故か、それは俺が想いを寄せているのが双子の妹である綴だからだ。身内に、それも妹に恋心を抱いているなんて周りが知れば軽蔑される、だろう。だけど俺は物心ついた頃から妹ではなくて一人の女として綴をみていた。
ハチと三郎一緒にいる時にやって来たくのいち達に色の授業の相手に誘われた。俺とハチは一瞬何を言われたのか思考が止まったが、三郎は「私は琴がいるから、悪いが断らせてもらう」と、あっさりと即答した。それを聞きハチも悪いと一言断っていた。喧嘩ばかりしているが一年生の頃からハチが絢に想いを寄せていて、絢もハチに想いを寄せているのは二人を見ていてわかる事だった。俺もやんわりと誘いに断りを入れたが俺自身はどうなんだ?くのいちの子じゃなくて綴と、そういう事を望んでいるから断ったのか?
一言申し訳なさそうに謝りをいれて去っていったくのいち達をぼんやりと眺めていると三郎が口を開く。
「さて、と。私はさろそろ琴に会いに行くよ」
片手をあげ軽く手を振る三郎の背中を見送る。同じ五年い組の五十嵐琴、三郎が想いを寄せている相手で本当に大切にしているのはわかる。三郎は自分の気持ちに正直だ。ばつの悪そうな表情をしたハチが溜め息をつく。
「まさか誘われるとはなぁ…」
「ハチは絢がいるしな」
「まぁ、な。喧嘩ばっかだけど可愛いとこもあんだぜ?」
「知ってる知ってる」
少し照れ臭そうにしながらもそうやって打ち明けられるハチが少し羨ましい。
「そう言う兵助こそ綴がいるから断ったんだろ?」
「え、あ、まぁ…」
「何だ違うのか?俺はてっきりそうだと思ってたんだけどな」
ハチの一言に思考が止まる。
「…なぁ、ハチ。俺がさ、綴を好きって言ったら…」
お前は変だと思う?頭の中に浮かんだ言葉は出てこなくて言えなかった。
「俺はお前らお似合いだと思ってるぜ、双子とかそんなのも全部含めて、な」
だから兵助も素直に打ち明けてこい、と笑うハチに背中を押される。
「…ありがとう、ハチ」
一言小さく呟き綴を探すためにハチと別れた。
綴は何処にいるかということで長屋に戻ってみると予想通り、綴は部屋にいた。
「綴、」
名前を呼びその背中に手を伸ばそうとしたその瞬間、綴が俺の胸にすがり付くように抱きついてきた。いきなりの事に対処しきれなかった俺はそのままの勢いで床に座り込む形になった。
「…くく兄」
綴は顔をあげようとせずに抱き締めている腕に力が入るのが伝わる。なにか、いつもと様子が違う。
「三郎から、聞いたよ。誘われたって」
三郎から、ということは色の授業の相手の事で間違いないだろう。口を開く前に綴の言葉に遮られる。
「さすがくく兄だよね、我が片割れながら…、なのにね。それ聞いた時に嫌だって思ったの」
「…綴?」
「可笑しいよね、くく兄は僕と双子で、お兄さんなのに。くく兄が誰とそうしたってくく兄が幸せなら僕は全然いいって思ってたのに」
だけど。顔をあげて俺の首元にすがるように腕を回してくる綴の瞳には零れそうな涙が溜まっていた。
「…嫌なんだ。へ、いすけを誰かにとられるのが。兵助とこういうことしたいって思うの、やっぱり変だよ、ね」
気が付けば俺は綴を抱き締めていた。なんだ、俺も綴も同じ悩みを抱えていたのか。近すぎて傍にいすぎて気づけなかった単純な事。
「俺も同じだよ、綴。綴と一緒がいい。双子とか関係なしで綴が好きなんだ」
「…兵助」
「もっと呼んで」
「兵助、兵助。好き、好きだよ」
「うん、俺も」
ぽろぽろと零れ落ちる涙を指で優しく払いのけそのままゆっくりと綴を組敷くと黒髪が床に広がる。そのまま愛しい片割れに口付けを落とした。
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