鉢屋と透 0619
五年い組五十嵐琴。私は琴が好きだ、好きではあるのだが…。琴を目の前にするとその気持ちをぶつける勇気がない、言っておくが断じてヘタレとかそういうのではなくてだな…。
「さーぶろう」
隣から聞こえてきた声に驚くより先に溜息が出る。
「…透。雷蔵がいない隙をついて部屋に来るのをやめてくれないか」
しかも上手いこと気配を消していつの間にか隣に座っているものだからなかなか心臓に悪い。といってももう慣れたものだから今となっては溜息ものだ。
「だって雷蔵がいると三郎絶対話してくれないから」
「…聞いても面白いものじゃないだろう」
「私は興味あるんだもの」
雷蔵と似たような顔でくすくすと笑う、雷蔵の顔を借りている私が言うのも何だが。
「それで、奥手な三郎くんは何をお悩みで?」
「…お前なぁ」
「違った?三郎の事だから手出していいか悩んでるとかそんなのだろうかなぁって思ったんだけどね」
返す言葉もなかった。おや、図星?と顔を覗き込んでくる透を手で軽く押し退ける。
「…正直になればいいのに」
「なれるのなら私だってとっくになっている」
「いっそ思いきって抱き締めてみるとか?」
「その前に逃げられる」
「…なるほど、琴ちゃん」
まぁ、そういうところも可愛いんだが、と小さく呟くとおやおやぁ、とにっこにこ笑いながら反応を示した透の額を小突く、全く。私にもそれなりに不安はあるんだよ、琴が大切だから余計に。
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