千尋と鈴音 0808

幼馴染という響きは世の読者からしたら甘美に聞こえるかもしれない、それが異性だと特にだ。その幼馴染がオレにも一人いる。朝霧鈴音、鈴音とかいてリオン、どこのラノベに出てくるヒロインだって話だ。実家も隣同士で一つ下の後輩、妹みたいな幼馴染と書くとさながらオレがラノベの主人公のようだ。
しかし現実はそうも甘くない、この幼馴染はオレの名前を普通に呼び捨てで呼び(まぁ、今更気にする程の事ではないが)何よりも口煩い、オレの母さんはお前がと言えるほどに。一言で片づけるとしたらそう、面倒臭いワケだ。可愛いのは確かだ、認める。鮮麗された可愛らしい顔から出るのはお小言ばかり。
…とか言ってたらホラきた。屋上にまで必死こいてオレを探しに来てくれるとはなんと面倒見が良いことだと。開口一番は退部したことについてなのは目に見えているので読みかけのラノベで顔を隠す、所詮そこまでのモノなんだ、執着なんてしてないと当事者は思っているのに口煩い幼馴染はやたら首を突っ込んでくる。

「千尋!連絡入れても出ないからどこにいるかと思ったら!」
「で、連絡なかったからわざわざ走って探しに来てくれたワケ?」
「そうよ」

…どれだけオレの事が好きなんだと思っていいはずだ。昼休みをオレと過ごす以外友達がいないんだろうがここまで来ると逆に心配にもなる。

「何で部活辞めたの」
「鈴音には関係ないだろ、続けるか辞めるかはオレの自由」
「三年間頑張ってきたんじゃないの!?そんな簡単に投げ出せるなんて思えない!」

本当に根っからの真面目というか、努力すれば報われると第一に思っているんだろうな、この幼馴染は。

「所詮オレはここまでしかないんだよ、キセキだの無冠だのが後輩にいるってのに努力すれば報われるか?レギュラーになれないのを分かっててわざわざ練習を続けるのはオレには出来ないね」

よく喋る口から反論の言葉が出なかった、それもそうだ。中学の時も今もどれだけ居残り練習を一人でしてもレギュラーになれなかった二軍止まりの鈴音にはオレの立場がよくわかるはずだ。

「それでも私は、千尋がバスケしてる姿が見たい」

声が震えてる、泣いてるのかと思ったが顔は見てやらない。いや、見れなかったのかも知れない。何と無く決心が揺らいでしまうかも思ったからからなのか。



category:黒子
タグ: ちひりお


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