クレミナ 0808

ずっと見てきた女の子がいた。宿屋で働いてる女の子、名前はミーナというらしい、歳はシーたんと同じぐらいに見える。聞いたところによれば家族や兄妹がいないらしくどうやら宿屋に住み込みで働いている彼女はいつも慌ただしく走り回っていた。当然オレは声を掛けられるワケもなくその背中を目で追う事しか出来なかった。

見ていたからこそわかった事、彼女は多分シーたんが好きだと思う。オレが彼女の背中を目で追うのと同じ様に彼女の視線はシーたんの背中を追っていた。声を掛ける前にオレの恋心は呆気なく親友に負けてしまった。まぁ、そんな事でいちいちへこたれているオレではない、どうやらシーたんに声を掛けたくても掛けられないようなそんな状況何だろう、其れならオレが間に入ってやればいいんじゃないか?うん、其れでいい。会話をするきっかけにもなる!そうと決まれば行くしかない、決意をした途端足早にオレは宿屋に向かった。


休憩中なのか壁に背中を預け一息ついている彼女を見つけた、今日も可愛い、と本音を吐き出してしまわない様にグッと堪え近くに駆け寄る。


「なぁ、君!」
「え?は、はい」

追っていた背中じゃなくて正面から初めて視線が交わる。彼女からしたら知らない人に突然声を掛けられたんだ、困惑している様子なんだけどどうしよう、声を掛けたオレ自身がとても困惑しているというか、何を話すか全く決めてなかった!次の言葉が出なくて固まるオレに彼女は首を傾げた。茶色の髪に紫の瞳、オレと一緒だ。

「オレと兄妹になろう!」

口から咄嗟に出た言葉はとんでも無いもので。

「兄妹…?えっ、あの、貴方は?」
「オレはクレア。シーたんの友達、シーたんっていうのはシオンっていって黒髪に赤い瞳の…、知ってるよな?」
「あ、あの人…シオンさんって言うんだ…」
「そう、それでさ。君、シーたんの事好き?」
「!!ど、どうして」
「君がシーたんの事見てるの知ってたから。多分シーたんは気が付いていないけど。だからさ、オレと兄妹って事でシーたんと話してみない?ほら、髪色も目の色もオレと一緒だからさ」

唯ひたすらに言葉を捲し立てる、一方的にオレの意見だけをぶつけて丸め込もうとしてズルい事やってるんだろうなぁ。それでもオレは君との接点が何でもいいから作りたいんだ。

「私、家族とかいなくて…、兄妹ってどんなのかわからなくて」
「オレもいないんだ。家族とか兄妹がどんなものかって知らない」
「…何だか似てるね?今までお仕事でいっぱいだったから嬉しい…。私、ミーナ。宜しくね、えっと…お兄、ちゃん」

お兄ちゃんと、目の前の彼女は、ミーナは確かにそう告げた。向けられた笑みの優しさに心が揺らぐ。
オレとミーナの作られた偽りの兄妹関係、実らないであろう恋心を押し込めて兄としてミーナを側で見て行きたい守りたい。小さな手を取り未来に誓った。



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