飲み干してひとこと



襖を挟んだ向こうから澪の笑い声がする。まだ陽も高い昼下り、こんな時間に来客と言えば大方予想はつくし物好きは一人しか居ない。
「燭台切!」
ほら、やっぱり。勢いよく襖を開けて覗かせた姿、物好きがやって来た。
「御飯ならまだだよ」
「食べに来たわけではないんじゃぞ!」
「そう?今日は僕に何の用事」
切ろうと思って用意をしておいた林檎を一つ手に取ると何やら茜が不思議そうな表情を浮かべ距離を詰める。
「燭台切、お主が手にしている物はなんじゃ?」
「…これ?林檎だよ」
「りんご、というのか?赤くて丸いのう…」
まさか林檎を知らないとは、自称神様といえ何でもお見通しという訳ではなく知らない事はある模様。これに至っては意外どころ。慣れた手付きで切り分け始めると興味本位の視線が手元に注がれる。兎型に軽く形を整えてから小皿に並べ視線の元に差し出すときょとん、とした表情を向けられる。珍しいその表情に少しだけ可愛いと思ってしまった。
「食べてみる?」
「食べても良いのか!?」
「いいよ、ほら」
空いた手で兎型の林檎を一つ摘み口元に差し出す。今日だけは少し特別、食べさせてあげる。この事に関しては特に何も気にしていないのか、それとも目の前にある林檎に興味が持っていかれているのか何も言わず小さな口が林檎に噛み付いた。よく喋る口は食べている時だけは静かだ。
「…美味しい!」
「口にあった?」
「うむ!りんごとやらはとても美味しいのう!あ、しかもこれ!兎の形をしておるではないか!可愛いのう!」
「よくわかったね。主達にも持って行くから切れたの運んでくれるかな?」
「ウチにも手伝わせてくれるのか!勿論じゃぞ!」
僕の手から受け取った小皿を持って駆けていく背中を見送る。素直というか、何というか。自然と頬が緩んでいたのを押さえ次の林檎を一つ手に取った。
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