「ばれんたいん?」
先程から隣に居座る茜のお喋りな口から溢れ出てくる話題を聞き流しながら兎型林檎を切っていた燭台切の手が、聞き慣れない単語に止まる。
「そうじゃ、ばれんたいんじゃ!ウチも詳しいことはようわからんのじゃが、ちょこれーとと言うものを渡す日らしいのう!」
別の本丸で聞いたのじゃ。ふふん、と誇った表情は見せてはいるが茜自身も詳しい事は知っていないらしい。自称神様というものは何処までが本当であるのか多少どころではない疑問が残るが、今更気にしない方がいいであろうと心に秘める。
「それで、そのちょこれーととやらを渡してどうするの?」
「話によれば女子から好きな人に渡して想いを伝えるそうじゃ!」
「へぇ…、なかなかの事だね」
茜がこういう話題を振ってくるという事は何かしら裏がある。何時も大体そうだ、小皿に林檎を並べながらチラリと視線を茜に向けるが思っていたような変化はなかった。いや、別に茜に対して何かを期待している訳ではない筈だ。
「はっ!しまった。つい燭台切に言ってしまったが、これが他に知れたら燭台切がもてもてになってしまうのではないのじゃろうか!?」
突拍子もない話題転換に思わず燭台切の力が抜ける。包丁を置いていて正解だった。
「どうしていきなりそうなるの」
「お主を好いている女子は間違いなく多いであろう!?ウチは知っているんじゃぞ…、この前の審神者会でお主が女子の審神者からの視線を集めていた事を!」
効果音がなりそうな程の勢いで指差された右手を人に指をささない、と上から被せるように静止させる。自身が気にもしていないところに茜は何時も目を向けてくれている事は多少、嬉しい。僕の事なんてそう気にしなくてもいいよ、と伝えようが否定されるであろう。人様から好意を向けられる事は嫌ではないと最近は思えるようになってきた、茜に対する心変わりを感じる。
一つ、林檎を摘みながら挑戦的な話題を振ってみる。
「その話題出してくれたからには、茜から僕に渡してくれるって事だよね?」
「ちょこれーとがどんな物かはウチも見た事がないから用意は出来ておらんのだがここに!美味しいお団子はあるんじゃぞ!!」
「…って、あるの。本当に」
「当たり前じゃ!ウチは燭台切に好意的じゃといっておるじゃろう?いや、それより。それよりじゃ。ウチの想い、…受け取ってくれるかのう…?」
可愛い。
そう、真っ先に浮かんでしまった言葉。
先程までと打って変わったようにしおらしくなってしまった茜の態度の変化に、話題を振りかけた筈の燭台切が大敗北。反則だ、思わず口元を手で覆う。そんな可愛らしいところを見せられたら受け取るしか答えはなかった。
