「お味噌汁ー、お味噌汁ー」
調理をする傍らで、茜がお椀を持って待機する様が当たり前のようになってきている日常は如何かと燭台切は思う。 兎型林檎の次に茜が興味を示したのは燭台切自作の味噌汁。御飯の一部としては定番だがここまで気に入られるとは思ってもいなかった故、調理をする本人も疑問を抱くところはあった。何分かわりもない、強いて言えば畑で収穫した新鮮な野菜たっぷり具沢山、といったとこぐらいだろう。それでも茜は気に入っている。
「そんなにお味噌汁が好き?」
「うむ!好きじゃ!」
「林檎にお味噌汁に…、他に好きなものは?」
「勿論燭台切一択じゃ!」
「食べ物でね」
別の方向にストレートで返ってきた答えを深く考えず、軽く流しながら問い質す。食事を共にする時、出されたものは何でも食べる茜を見てきた燭台切にとっては気になっていた点の一つであった。
「そうじゃな…、食べ物の好みはこれといってはないかのう…?今まで食べる必要がなかったのじゃ」
「え?それって食べた事がなかったって事…だよね?まぁ、僕も人の事を言えるようなものじゃないんだけど」
「そういう事じゃな!だからウチからしたら食べる事自体はしなくても良い行為なんじゃ」
「そうだったんだ」
今迄の言動が脳裏で一致する。食に関して無知なところが多い神様だとは思っていたが、食をとった事が今までなかったとは思いもしていなかった。食を取るようになったというのにあの細腕は如何か、些か心配にはなるが当の本人は気にもしていない事が予想出来る。
「何はともあれ、ウチは燭台切が作るご飯なら何でも好きじゃ!という事じゃのう!」
食を必要としなかった一人の神様が食べる事を好きになった。作る側の立場としては、自分の料理を好きと言われて嫌なものはいないであろう。どこか嬉しいような、暖かい感情が湧き上がる。
手を差し出すと乗せられる小さなお椀にいつもより少し多めのお味噌汁を注いだ。
