山姥切との手合わせを終え帰ってきたところ、嬉しそうな足取りで厨から味噌汁を運んでくる茜の姿を見かけた審神者が声を掛ける。
「茜!何やら嬉しそうだな!」
「燭台切がのう!毎日お味噌汁を作ってくれると言ってくれたのじゃ!」
「ほう、光忠がか?そういえば最近味噌汁を作るのを楽しんでいるようだったが…」
そうだ、面白いものをこの前光忠に見せたんだ。その一言に運んでいた味噌汁を机に並べた茜は彼女が持つ電子機器を覗き込む。スクロールされる文字を目で追う途中、一文が目に止まる。直後、慌ただしく立ち上がった茜は元来た厨へと走り出していった。残された彼女は突然の出来事に頭がついて行かず、茜に見せた記事に目を通す。
「…何かしてしまったのか?」
「それはこっちの台詞だが」
遅れて帰ってきた山姥切は呆然と座り込んでいた彼女の後ろから電子機器を覗き込むと、机の上に並べられた味噌汁に視線を移し納得の表情を浮かべた。
「しょ、しょしょ燭台切!!」
「こら、危ないから走らない」
「はっ、すまぬ!!」
「慌ててどうしたの?味噌汁でも溢したならそこに」
「ち、違うんじゃ!そのお味噌汁が!」
「味噌汁が?」
身振り手振りで何かを伝えようとするが次第に口籠りはじめた茜を前に、いつもとの様子の違いに首を傾げる。多分、味噌汁を運んだ向こうで何かがあったんだろうことだけはわかるが。
「そのじゃな……、燭台切はウチに毎日お味噌汁を作ってくれるんじゃのう…?」
「うん?そうだね、茜が望むのなら僕は作らせて欲しいね」
その一言に力が抜けたのか、へなへなと床に座り込んでしまった茜の姿を前に流石に心配になってしまいしゃがみこむ。目線を合わせようとするものの、当の本人が俯き、両手で顔を覆いこちらをみようともしない。
「茜?」
「審神者が、電子機器で見せてくれたんじゃ」
ぽつり、ぽつりと小さな声で言葉を紡ぐ。主、電子機器。その単語に数日前の出来事が脳裏に蘇る。
「その、お味噌を作るのをくだりの意味が…。いや!あの!ウチの自惚れの思い込みかも知れんのじゃが!というかそうなのじゃが!きっと!!」
上げられた茜の顔は今までに見たこともない程赤に染まっていた。その顔が、余りにも可愛らしくて思わず手で口を覆う。完全な不意打ちだ。
絶対知る由はないと思っていた真意が、本人に筒抜けになってしまった。密かに、知られないように想いを伝えていればいいと思っていた筈なのに全てが表に出てしまった。こんな遠回りな事をして誤魔化していたというのに、分かられてしまってその上更に隠してしまうのは、刀であろうが男じゃない。
「えっと、すまんウチの早とちりじゃった、今のは忘れて…」
「茜、聞いてくれるかな」
小さく息を吐き、呼吸を整える。行き場をなくした手は目の前にある小さな手に伸び、そのまま握りしめる。触れてる筈なのに、不思議と気持ちが落ち着いていく。
「最初はあんまり良く思ってなかった、まぁ立場的なものもあるんだけどね。振り回されるのも格好がつかないし苦手だった。でも、気がついたら君の事が気になるようになっていたんだ。色んな顔を見たいって、思えるようになった。味噌汁の事も…、遠回りだったんだけど茜が知った意味通りだよ」
「しょ、くだいぎり…」
「全部知られちゃ、それこそ格好つかないよね。茜の事、全部が愛おしいんだ」
胸の内を全て出し切った事で、すうっと気持ちが楽になる。後は茜の返事を聞くだけ、と身構えるが返ってきた反応は嗚咽と共にぽろぽろと流れる大粒の涙。
「ウチ、そんな風に燭台切に想ってもらえるなんて、絶対ないと思ってたんじゃ…だから、もう、いまどうしたらいいかわからんのじゃ…」
「うん、それじゃあ単刀直入に聞くよ。茜は、僕の事が、好き…かな」
「好きじゃ!大好きじゃ!!」
返事と共に離された手が首元に回される。肩口に顔を埋め、泣き声をあげる茜の髪を何度も何度も優しく撫でる。嗚呼、抱き締められるって、あったかいんだな。このままもう少し、触れていたい。
