後ろ向きシンデレラ


「今度は何処行ってたの?」
数日間、地元で姿を見かけていた夏也が忽然と居なくなって一週間後、ようやっと見つけて捕まえたかと思うと当の本人は幾分気に掛けてもいないようで、いつも通り明るい笑顔を浮かべていた。それで帳消しにしてしまうのは狡いと思う。
「合同合宿だよ、OBとしてな」
ぽんぽんと軽く頭を撫でられる、これは間違いなく子供扱いだ。夏也から見ると、こちらは連絡を貰えなくて不貞腐れている妹か、はたまた弟である郁弥に重ねて見られているのかもしれない。
確かに、夏也がわざわざりくに連絡を寄越す必要はない。あくまで同級生、あくまで友達の範囲なのだ。頭では理解しているものの、自分の中でどうにも納得がいかなくて、駆け寄った時に思わず掴んだ夏也の腕に力を込める。
「夏也くん、すぐどっか行くんだから…」
小声で出てしまった我儘、裏を返せば寂しい。そんな心境、夏也の特別ではない者が吐露すべき事ではないのはわかっている。彼がどんな表情を浮かべているのか、見る事が出来ない。
「今度はちゃんと連絡するからさ」
柔らかな声色、ちらりと視線をあげると夏也から向けられる表情は、軽蔑するわけでもなく、どちらかといえば慈しみさえ含まれているような笑顔は余りに綺麗で思わず息を飲む。この感情は、紛れもなく好きなんだろう。そう理解したものの、その言葉が口から吐き出される事はなかった。
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