スピカの爪先


図書室に寄って本を読み更けている間、気が付けば窓から見える外の景色は陽が落ち、薄暗くなりはじめていた。時間を確認する為に慌ただしく鞄から取り出したスマホのロック画面には、郁弥からの通知が物の見事に並んでいた。しまった、と思い返すは数時間前。部活が終わるまでの時間を本を読んで過ごそうと思っていたのである、決して待ち合わせを忘れていた訳では無い。強いて言い訳をするのであれば、物語に引き込まれていた、という事は流石に郁弥には言えないであろう。
鞄を取り図書館を後にする。何処にいるの、と並ぶ通知に目を通してから電話を掛ける。でも、郁弥には繋がらなかった。数回掛けたものの聴こえてくるのは電子音のみ。流石にもう帰ってしまったんだろうか、一言連絡を返しておく。また会って謝ろう、そう思いながらりくは霜学を後にした。

星が見えない、空を見上げてもキラキラと輝く星は視界に捉えられなかった。ぼんやりと眺めては足を進める。公園に差し掛かったところ、ふと見覚えのある様な人影を視界の隅で捉える。
「…郁弥?」
まさか、こんな所に。と思ったものの、本当に郁弥の姿がそこにあった。
「りく」
ベンチから立ち上がり、此方に向かってくる郁弥に対して、怒ってるんじゃないだろうかと疑問を抱く。するりと伸びてきたしなやかな手が、頬の横を掠め髪をかきあげる様にりくの右耳に触れる。
「連絡、気付かなくてごめんね。図書室にいたの」
「…心配した」
耳に触れていた手が後頭部へ添えられる、そのまま力を込めた郁弥の手によって、彼の胸元へと押し込められる。服の上から触れた郁弥の体は、少しひんやりとしていた。
「郁弥」
問い掛けても彼は何も答えない、反応からして怒ってはいないようだけど。返答があるまで待つ方がいいかな、と思いながら、彼の背中に腕を回した。
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