ヴィヴィット・ステップス


「追いかけないの?」
階段下、一人で佇む日和に声を掛ける。岩鳶中時代のチームメイトの元へ行く郁弥を見送ったのであろう、その表情はどこか涼やかで穏やかさを感じた。きっと彼が抱えていた物が溶けきったのだろう、吹っ切れた様にも見える。一度、此方に視線を向けた後、陽が沈む空を日和は見上げた。一段、一段、階段を降り、日和の横に立つ。
「りくこそ、郁弥の事追いかけなくていいの?」
「行かなくても、大丈夫だから」
コンメを泳ぎきった後の郁弥の笑顔が脳裏を過る。幼い頃と面影が重なり、懐かしさすら感じる郁弥の姿に心底、安心したのだ。それだけで、今のりくは十分満たされていた。
「そっか」
「置いてかれちゃったね。私も、日和も」
「今日ぐらいはいいんじゃないかな」
そう告げると歩き出した日和の横に並び、自然に歩みを進める。身長差があると言うのに、わざと合わせてくれている優しさ。お互い、何も言葉にする事はなく、もうすぐ星が顔を出すであろう空と一緒に、日和の横顔を見据えた。
ALICE+