空想ラバーズ


あの日以来、郁弥の笑顔が明るくなった。何処か幼い頃の面影すら感じる気がする。一時期距離を感じていた日和とも元の関係以上に良くなった様で、内輪には入れないものの心配していた身としては一安心だ。多分、これから日和だけでなく、中学時代との友人達との付き合いが増えるんだろう。郁弥が好きな水泳で繋がる友人達だ、決してそれが悪いなんていう事はない。幼馴染として、少し寂しいんだろう。
思考を巡らせている内に講義も終了したようで、席を立つ音でふと、我に帰る。移動しなきゃ、そう思い慌ただしく荷物を纏めていると、重なったノートが机から滑り落ちるのを視界が捉えた。あっ、と声が出る前に、視線の先には郁弥が姿を現した。
「…っぶな」
後ろから駆け付けてくれたのだろうか、空いた右手には見事にりくのノートが収まっていた。
「ありがとう、郁弥。ノート拾ってくれて…」
「いいよ気にしなくて、タイミングよかっただけだから」
ほら、と救出されたノートをしっかりと受け取る。郁弥は少し笑みを浮かべたかと思うと、数十秒後には眉を顰めていた。
「…どうしたの?」
「え、郁弥行かないのかなって」
「別に焦る用事もないし…、っていうかりくこそ行かないの?」
「…一緒に行っていい?」
「何を今更」
その言葉に、ふっと気持ちが軽くなる。本当に、何処までもこの幼馴染は私に優しい。そう優しくされると、好意に甘えてしまってもいいのかなと思い上がってしまう。残りの荷物を片手に、今度こそ落とさないようにと胸の前で抱えてから郁弥の隣に立つ。
「今日はお弁当?」
「ううん、学食も食べてみようかなって」
「僕もだから、このまま行こっか」
「うん」
願わくば、少しだけでいいから、郁弥と一緒に過ごせる時間が続けば良いのに。
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