鼓動をふたつ飛び越えて


最近、幼馴染が少し余所余所しい。りく自身も意識的に自覚はないであろう多少の変化だけど、郁弥には感じ取れた。別段、何かをしたという明確な理由もない。距離を置かれるような行為も、りく自身との揉め事もあった訳ではない。というのに、何故か遠慮をしてくる。話題を振っても、日和の事やハル達の事、水泳の事。りくに関する話題を避けようとしているのがひしひしと伝わってくる、本当に何故なのか。思わず溢れた溜息に、りくの身体が揺れる。
「りく、僕何かした?」
「え、」
「気に触るような事、してたら謝るから。だから」
「そうじゃなくて…!」
珍しくりくが声を荒げ、言葉を遮る。彼女の容姿に似つかない程の必死さが溢れ出ていた。
「郁弥が、よく笑ってくれる様になったから」
だから嬉しくて、と付け足す。この言葉の裏には、だから日和達と一緒にいて欲しいという遠慮とも取れる複雑な感情があるのだろうか。友達をとるか、りくを取るか、そもそもがそういう問題ではないというのに。昔から変なところで気を遣ったり空気を読む癖があるとは思っていたけれど、自分の事で遠慮されるのはりくだからこそ、して欲しくない。
「今はりくといたいんだけど」
「…いいの?」
「僕がりくに悪いなんて言ったことないでしょ」
ストレートに言う事は正直恥ずかしいけど、そうでもしないとりくに伝わらないのなら言葉にする方を選ぶ。その言葉に答えるかの様に、りくはふわりと笑顔を見せた。
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