ノンシガーレス


試合中、客席から向けられる視線には気付いていた。気付くな、という方が難しい。郁弥の試合を見届けた後、その視線の持ち主を探すべく、チームとは反対側の客席にわざわざ足を運ぶ。案の定、予想は的中していた様で、光に当たると透き通る様な銀に近い髪を高い位置で束ね、プールサイドを真剣な瞳で見つめる横顔を見つけた。
「りく、来てるなら声掛けてくれればいいのに」
来ていたのは知っていたんだけど。そう思いながら声を掛けると、金色の瞳がこちらを向く。
「りく、試合終わったの?」
「僕と郁弥はね、さっきみてたでしょ?」
「うん、久しぶりに郁弥の泳ぐところ見れたの…」
余り変化のない表情が、郁弥の話をする時はふわりと揺れ動く、心底嬉しそうな感情を乗せて。
「今から郁弥を迎えに行くんだけど、りくも帰ろっか」
「え、でもまだ試合終わってないよね?」
「僕達のは終わったからいいんだよ、ほら」
早く、と急かしつつその小さな手を取る。少し引き寄せるだけで、小さな身体は蹌踉めき、此方に倒れ込みそうになる。こんなにも弱いというのに、心の奥底で思いながら、いつもより小さめの歩幅でりくと共に客席を立ち去った。
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