追憶コラージュ


お邪魔します、という声の後に、丁寧に靴を並べ揃えたりくが足を踏み入れたのは一人暮らし中の郁弥の部屋。部活がオフの日に誘いかけたのは確かに郁弥自身からだったが、悩む事なく即答の返事が返ってくるとは、少し予想外ではあった。りくは少し視線を見渡した後、郁弥に示されたソファーに少し遠慮がちに座り込む。その間にお湯を沸かしつつ、手際良くコーヒーを二人分入れる。そういえば、昔から甘いものの方を彼女は好んでいたが、今も変わりはないのだろうか。そう思いながら片方のコップにミルクと少し多めの砂糖を加える。
「まだ熱いから気を付けて」
「ありがと、郁弥」
カップを受け取ったりくは、口を近ずけ冷ます様な仕草を見せる、その様子がどこか可愛らしく思えて、ベッドに腰掛けながらも思わず視線は取られるばかりだった。
「郁弥の部屋って久しぶりだね」
「それはもっと昔の話でしょ、あっちは実家だったし…」
「でも、空気は似てるよ?」
変わってなくてよかった、と彼女は笑う。そう言われて、内心は少し複雑な気持ちにもなる。彼女にとって昔と変わりもなく、あの時と同じ様に安心できる存在なのは喜ばしい事だ。でも、どこか数年ぶりの再会だというのに、変われていない自分がいる事にも不安を抱いてしまう。りくといる時に、そのような気持ちにはなりたくないというのに。
「郁弥」
彼女の声に深く沈みそうになっていた思考が現実に浮上する。視線も床へ落ちていたが、見上げた先で彼女の表情を捉えた。
「甘いの、覚えててくれたんだね」
普段余り変化の見られない表情がにこり、と柔らかな笑みを浮かべる。可愛いではなく、思わず息を呑むほど綺麗に映るその笑顔は、歳月の変化を嫌でも感じさせられた。
「味、大丈夫だった?」
「うん」
手を伸ばし、綺麗に飲み干されたカップを受け取る。その時に触れたりくの手は温もりを帯びていた。
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