禁忌が甘いわけ


「…それだけで足りるの?」
脳裏に過ぎった疑問は率直に言葉になった。学食にて、昼食を共にしたりくの食事量の少なさに思わず目を見張る。郁弥自身もそこまでの量を食べるわけでは無いが、サンドイッチ一品のみを購入したりくはそれ以上だった。
「食べる?」
「僕が食べたらりくのがなくなるでしょ」
そう?と小首を傾げながらサンドイッチを手に取る仕草を目で追う。女の子とはこういうものなんだろうかと、答えのない疑問を抱く。幼馴染という事もあり人並み以上に親しいと思っていたりく相手でも、知らない事や分からない事がこうして浮かんでくる。空いた月日の分、いつのまにか開いていた男女の差。もうあの頃のままではないのだ。
「シュークリーム、あるから足りるよ」
思考を巡らせている内に、目の前にスッと差し出されたのはシュークリーム。気が付けば鞄から取り出していたんだろう。そういえば、シュークリームはりくの好物であった事を思い出す。
「沢山あるから、郁弥にもあげる」
「…ありがとう」
有無を言わさずな表情に反論も出来ず、差し出されたシュークリームを手に取る。食べて、と言わんばかり顔に書いてあるように感じ取れるそのオーラ。これはこの場で食べるしかない、決意して袋を開ける。ぱくり、口に含むと皮を破ってカスタードクリームの甘さが口の中を満たす。思えば、久しぶりに食べたような気さえした。視界を上げると、同じようにシュークリームを口に含む幸せそうな笑みを浮かべたりくがいた。
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