いつかのアイラブユウが落ちて来る
呼ばれている気がする、追われている気がする。一体誰だ、誰にだ、わからない。ガンガンと悲鳴をあげる頭が重い。半分壊れてしまった眼鏡の所為で視点も定まらない。傷は深くない筈だが足取りを進める事が出来ず、壁に体を預けると重力を失った肢体はズルズルと力無く床に落ちていく。このまま放って置いてくれ、眼を開けると、この世のモノではない見てはいけないモノが見えそうだ。遠くから聞こえてくる軽い足音が迫り寄る、耳まで可笑しくなりやがったのか。「安吾、ちゃんと見て」
聞き慣れた声がした。ぺちん、弱々しい力で両頬を挟まれる。まるで硝子玉のような輝きを放つ金色が真っ直ぐと視線を射抜く。アンタだったのか。自分でも驚く程弱々しく絞り出された声にりくは小さく頷いた。
「遅くなってごめんね。補修室空いたから、早く行こ。こっちじゃないよ」
追われる恐怖心から相当彷徨っていたらしい。助手にでも頼めば良いものの、戻らない事に気付いたこのお人好しの司書は此処まで探しに来てくれたのか。先程まで酷く苦しめていた頭の痛みも不思議と治まっていた。一体、何が怖かったんだろうか。両頬を包む手をゆっくりと剥がす、其の儘手を引き抱き寄せた。腰に、頭に、手を回す。小さな身体は抵抗する事もなく、胸の中にすっぽりと収まる。本当にか細くて小さい、力を込めてしまえば折れてしまいそうに感じると言うのに、何故かわからない。触れ合ったところから伝わる熱、心がすっと落ち着いていく。手を伸ばしても届かないのか、背中をぎゅっと掴まれる感触。ははっ、と喉から渇いた笑いが零れ落ちる。胸の奥底からふつふつと暖かい思いが湧き上がるのを感じた。もう少し、もう少しこのままでいて欲しい。