泡沫少女の願望
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、白い天井一面が視界を埋める。一体どれ程眠っていたのだろうか、鈍る体を起こし、窓の外を見るとまだ陽は落ちておらず、暖かい光が注いでいた。コンコン、と響くノックの音。返事をすると、扉が開くと共にりくが顔を覗かせる。作之助が起きていることを確認すると、ぱたぱたと足音を立て、ベッドの横にある椅子に座り込む。「作之助、もう大丈夫?」
「大丈夫やで。太宰クンと安吾は?」
「アンタは休んどけ、って安吾が。新しい有碍書が見つかって…、鏡花と秋声がついていってるから大丈夫だよ」
「ワシだけ離脱やったんか…、堪忍な」
「ううん」
小さく首を振ると、作之助が帰って来てくれてよかった。小さな声が耳に届く。二人きりの補修室。今でこそ文豪が増えたが、初めて一人での潜書。傷を負った体で喪失になりながらも、図書館へ帰って来たあの日を思い出す。涙を零しながら必死で名前を呼ぶ少女の姿が脳裏を過ぎる。
「一人で待ってるのも、なんか嫌だね。私も、作之助たちの力になれたらいいのに」
「お司書はんは充分ワシらの力になっとるで」
「でも、戦えないよ?作之助たちの痛みもわからない」
何も力になれないとでも思っているのか、膝上で固く握り締められた手に、己の掌を包み込むように重ねる。伏せられた黄金の瞳が開かれ、真っ直ぐに少女と視線が交わる。
「そうやなくてな。お司書はんが此処で待っててくれるから、どんだけ怪我しても帰らなあかんって思えるんやで」
「っ、そんなこと」
「ワシらにとってな、帰る場所は大事なんや。それは太宰クンも、安吾も。秋声くんと泉先生も同じや」
「作之助…」
何か言いたげに開かれた口が言葉を発するその前に、銀の髪に手を伸ばす。やわやわと優しく撫でると、少女は困ったように瞳を伏せる、どうやらまだ納得がいっていない様だ。
帰る場所があり、其処で待っている少女の存在がどれ程に力強いものか。分からなくてもそれでいい、少女の存在に支えられていることに変わりはない事実だ。