積もるのは恋というもの
感謝の気持ちなど、伝えようと思えば何時でも伝えられる。それでは浪漫がない、名目付けられた機会だからこそ有意義に利用するべき事もある。「あれ?」
司書室に入った瞬間、何か違和感を感じる。机の上には一通の置き手紙。先程まではなかった筈の物が食堂に行っている間に置かれていた。手に取ると小綺麗に装飾された手紙にはつらつらと小難しいような、遠回しなような文が書かれていた。差出人は不明だが、字の雰囲気から何と無く分かるような気もしてりくは首を傾げる。
「部屋に行けばいいのかな…?」
手にした手紙を一度引き出しに直し、差出人探しのために司書室をそっと後にした。
食堂を経由し、廊下を進んだ先に彼らの個室がある。万一食堂にいるかと思って覗いてみたが、残念ながら誰もおらず。多分、合っている筈だとりくにはどこか確信はあった。口元に手を添え、考え込みながら廊下の角を曲がったその先。ぽすん、とふわふわとしたものにぶつかる。わっ、と突然の出来事に小さく声が漏れ、思わずぎゅっと目を閉じる。ふわふわした感触が肌から離れていくのを感じ、ゆっくりと目を開ける。視界に飛び込んでくるのは黄色に白のラインが入ったリボンを首に巻かれた真っ白で、大きなくまのぬいぐるみ。
「お司書はん!」
どうして、くま?ぱちくりと瞬きをしていると、ぴこぴこと可愛らしくくまの手が動く。頭上からの聞き慣れた声に視線を上げるとその持ち主がにっこりとした笑顔を浮かべていた。
「作之助?」
「太宰クンと安吾もおるで!」
作之助の隣に姿を見せた太宰と安吾により、あの手紙の差出人が太宰だったことにようやく確信がつくが、置かれている状況には全くついていけていない。
「これな、ワシらからお司書はんに」
「小っ恥ずかしい置き手紙は太宰からな」
「小っ恥ずかしい言うな!!」
作之助から手渡されると、目で見ても大きいと思っていたくまのぬいぐるみは、抱えるともっと大きくて、ふわふわしていてとても心地良い。リボンの色も普段りくが身につけているのとお揃いで。
「可愛い…。でも、どうして?」
「今日はな、ちょっとした特別な日やから」
「まぁ、俺らなりの感謝の気持ちだと思って受け取ってくれ」
「オダサクがそのくま見て、お司書はんみたいやーって浮れてさ」
「あっ!太宰クン!その話内緒や言うたやろ!安吾もリボンの色、拘っとったやん!」
「おいオダサク!言うなって!」
いつものように、目の前でワイワイと繰り広げられる三人の物言いを聞きながら、ぎゅっとくまを抱きしめる。嗚呼、なんてしあわせであったかいんだろう。
「ありがとう」
嬉しくて、素直な気持ちを声にすると思わず緩む頬。その言葉にぴたりと言い合いを止めた三羽烏は、顔を見合わせて満足そうに笑みを浮かべた。