桜、色付く頃に

さくらんぼを買いに行こう、桜を眺めていたりくの一言から購買へ足を運んだのは数十分前。一体情報源は何処からなのか、治はさくらんぼが好きだって聞いたから、とりくが言ったのは数分前。桜が咲き誇る下、二人で一緒にベンチに腰掛け先程までの出来事を思い返す。買ったさくらんぼは綺麗に水洗いをされた後、透明のパックに戻され、りくの手の中にある。何をしているのかと手元を覗くと、さくらんぼの茎をぷちぷちとちぎるその慣れていない手付きにすら、愛おしさをじんわりと感じる。何て幸せで、満たされた昼下がりだこと。
そのまま小さな口に赤い実を放り込んで、甘味が広がり、甘さを噛み締める姿をこの目で、この距離で見たいと、素直な欲がふつふつと湧き上がる。が、白い手に摘まれた赤い実はりくの口元には行かず、太宰の唇へと押し付けられていた。薄く口を開くと、さくらんぼは落ちるように口の中へ転がり込む。馴れ親しんだ味を堪能するのも束の間、再び押し付けられた赤い実。立て続けで繰り返される行為は流石の太宰も予想をしておらず、言葉を発する事さえ許されない状況下に陥る。

何とか一息ついた頃にはパックの中に残された実は片手程になっていた。慌ててその実に手を伸ばし、先程まで受けていた行為そのものをりくへ仕掛けると、ぱちくりと目を見開かれる。小さな口へ吸い込まれ溶けていく実に、やっと太宰が待ち望んでいた光景が見られた。
「美味しい…。でも、治が食べなきゃ」
「俺ばっかり食べなくても!?」
「治が食べなきゃ駄目」
駄目と言われると、どうしても強く返せないのは惚れた弱みか。そう簡単に折れてくれない意思をりくの瞳が物語っている。こうなれば、彼女の気がすむまで好きにさせるのが一番良い、ストレートな行為には甘えようと、再び口元へ運ばれるであろうさくらんぼに目をやった。

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