桜、舞い散る頃に

一仕事終えた書類をトントンと整え直す。少し暖かくなってきた為、開けっ放しにしておいたままの窓から夜の風が吹き込んだ。そろそろ閉めないと、席を立ち窓際へ立ち寄ると中庭に咲き誇る満開の桜の木の下に誰かがいるのが見える。よくよく目を凝らしてみると、どうやら安吾らしい。こんな夜遅くに一人でいるなんて珍しい、疑問に思ったりくは、背凭れに掛けていた白衣を手に取り、司書室を後にした。
「安吾、何してるの」
「夜桜を眺めにな、アンタこそ遅くに出歩くと心配されるぜ?」
「だって安吾が見えたから」
そうかい、と含みのある様な笑みを一度向けた後、安吾は再び頭の上高くにある桜に目を向ける。手に取ったままでいた白衣に腕を通しながら、その視線に合わせてりくも顔を上げる。暗い空の中、まあるく光る月明かりを浴びて輝く桜は綺麗だけど、少し怖いような気もした。ぴゆう、と強い風に桜の花弁がはらはらとが空を舞う。少し目を覆ったその先、目の前にいる筈の安吾が遮られるように見えなくなる。そんなはずはない、舞い散る花弁の向こうに慌てて手を伸ばすと、指先が硬いジャケットの裾をしっかりと掴む。少し目を見開いた安吾がちゃんとそこにいた。なんて顔してんだ、頭の上に乗せられた手は暖かかった。

ALICE+