君が泣くまで帰らない
数十分程前まで玄関先で鳴り響いていた物音と治の名前を呼ぶ声は、中也の司書さんと思われる女の人の一喝以降静まり返っていた。玄関先を確認しに行った作之助曰く、もうそこはもぬけの殻だったよう。夜中に起こった突然の来訪騒ぎは、被害なくひと段落。ただ一人、中也に名前を呼ばれ続けた治は、今でも羽織を被るようにして肩を震わせてしゃがみ込んでいた。様子がおかしいのは一目見てわかる。「…治?もう大丈夫だよ。向こうの司書さんが連れて帰ったみたい」
「ほ、本当か…?」
「うん、作之助が見てくれたよ」
前に座り込み、顔を覗き込むと金色の瞳が不安に揺れる。余程怖かったみたい。感情と一緒にしゅん、とへたった特徴的な跳ねる毛すら愛おしいような、放っておけない不思議な気持ちになる。本で見た愛なんて知らない筈なのに。
「大丈夫、大丈夫だよ」
そのまま両手を伸ばし、項垂れた頭をぎゅっと、抱え込むように抱きしめる。癖のある毛は手に馴染み、やわやわと撫でるのが心地よい。
「…りく」
「うん?」
治らしくないか細い声が耳に届く。
「もう少し、このままでいて欲しい…」
「うん」
抵抗される事なく受け入れられた事が嬉しくて。お言葉に甘えてもう少し、好きにさせて貰おうかな。