ストロベリーレッドの誘惑
すやすやと可愛らしい寝息をたてるりくを起こさぬよう、太宰は戸棚の上に置いたままになっていた煙草に手を伸ばす。一つ取り出し、火をつけると独特の嗜好が広がる。ふう、と息をつくと吐き出される白い煙の行方をただ目で追う。生前と違い、嗜みはするものの頼りきる事はなくなった。彼女に匂いが移るのを本能的に嫌がったのか、オダサクも安吾も、吸っている姿を殆ど見ない。減らない煙草の本数がそれを物語っているようだ。
「いつもと違う匂いがする」
ひたり、背中に寄り添うように触れる温もりに、太宰は慌ただしく灰皿に手を伸ばし、煙草を揉み消した。
別にいいのに、少し不満が入り混じった声が聞こえたと思うと不意に力強く肩を引かれ、背中からベッドに倒れ込むように戻される。遥か高く映る天井との視界を遮るかのように、太宰を覗き込んだりくの虚ろな瞳が金色を捕える。寝惚けている、そう思うのも束の間。柔らかな感触が唇に触れたかと思うと、ねとり、舌を挿し込まれる。慣れていないのか、ぎこちなく絡め取ろうとする行為は何て初々しくいじらしい。
そのままされるがままに堪能していると名残惜しく離された先、口元に手を当てて眉を寄せるりくの表情を見ながら体を起こす。
「苦い……」
「そりゃありくには苦いか」
「いい匂いだと思ったのに、甘くない……」
シュークリームが好みな彼女の味覚にはどうやら煙草の味は合わなかった模様。合ったら合ったで困るものはあるが。これは朝飯からシュークリームで口直しがいるな、そう思いながら解けた髪を結う為に、彼女の銀髪に手を伸ばした。