なりそめとかりそめ
嗚呼、きっと作之助と治のことが大切なんだ。彼が此処に来る前、手当り次第に小説を読み漁ったとはいえ嗜んだ程度の、所詮浅はかな知識しかない。それでもりくには、彼が言う守りたいものが何なのか。家族という概念はわからないが、何処と無く理解出来る気がした。それと同時に家族であるとするならば、多分、兄の様なのだろうと、そう勝手に印象付けて思い込んでいた。
「幻滅したか?」
ううん、と伏せられた頭に返す。幻滅なんてしていない。ただ少し、予想と現実は違っていたのに驚きはした。腹に摺り寄せられる漆黒の髪に手を伸ばし、やわやわと撫でるとぴくり、と黒い頭が動く。まるで大きな犬みたいで、少しくすぐったい。表情が見えないと彼が何を思っているのか、より一層読み取れなくなる。
回帰を望むかのように、作之助も、治も、求めてきた行為。安吾もきっとそう。求められるのは嬉しいけど、きっと彼らが望んでいる答えは返せない。触れ合う距離近付けば近付く程、変えられない現実が重く伸し掛かる。どれだけ人らしくあろうと形を繕おうが、人にはなれないというのに。
「アンタは暖かいな」
「安吾が暖かいからだよ」
私は暖かくないもの。小さく零すと、腰に回された腕に力が篭る。少し息苦しい感覚すら、生きている事実を突きつけられるようで今は心地よい。一体、この人はどこまで否定してくれるのかな。