何者からはじめよう

「一杯が限度か…」
「りくもだけどオダサクも相当きてんなこれ」
空になったグラスと並ぶように仲良く机に突っ伏す二人の姿に安吾は思わず溜息を零す。かろうじてまだ意識はある様で、むにゃむにゃと言葉にならない寝言を呟く作之助の横でりくはすやすやと夢の中。うっすらと頬を赤く染めた少女の寝顔に見惚れていたのか、頬を緩め笑みを浮かべる太宰の脇腹を安吾は軽く小突く。
「な、なんだよ安吾!」
「頬緩みきってんぞ。どうする?このまま寝かせとくのもな、部屋に送ってやるか?」
「俺が!?……行こうかな」
「アンタそういうところは素直だよな」
くつくつと声を殺して笑う安吾に若干の恥ずかしさに覚えながらも、少女を見つめる瞳は愛おしい人への愛情が込められている。無自覚なのか、無意識なのか。本人に聞かなくても周囲にその態度はバレバレだ。
「可愛いよなぁ…」
「かわええよな…」
「お、オダサクお目覚めか?」
「太宰クンが騒ぐから目ぇ覚めてもうたわ…」
「悪かったな!ていうかそんなに俺騒いでないけど!」
伏していた頭を重たそうに持ち上げると丁寧に結われた三つ編みが揺れる。作之助の頬はまだほんのりと赤く、酔いも抜け切っていないのか定まらぬ目線で捉えたりくの頭に大きな手が置かれる。
「お司書はん寝てもうたん?ぐっすりやね」
「大丈夫だ、俺が今から運ぶから!」
「ええ?ワシが運んだるって」
「いいや、俺に任せとけって!オダサクはゆっくり寝てろ」
「ええー、大丈夫、大丈夫やて。なぁー、お司書はんー?」
「絶対寝ぼけてるだろそれ!」
隣で寝ている人がいるとは思えない様な騒ぎ立てっぷりは如何なものかと。これで起きないりくも相当深い眠りに落ちている。チラリと少女の寝顔に視線を向ける。司書と名乗る出逢ったばかりの少女、友人二人が心を開き、虜になっているのは何故なのか。安吾にはまだ理解し難いものがある。
「随分とお気に入りなんだな、アンタらの司書とやらを」
「安吾は知ったばかりやもんな」
「時期にわかるさ」
「時期に、ねぇ…」
一体どんな秘密を秘めているのか、はたまた何の取り柄もない平凡な少女なのか。寝顔しか知らない少女に沸々と興味が湧き上がるのを抑える。グラスを片手に彼らの惚気を音楽に、ゆっくりと夜は明ける。

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