愛の墓場と呼ばれた場所で
眼が覚めるとは不思議な感覚だ。少し前までは眠るという行為に意味があり人には必要不可欠な要素という事すら知らなかったというのに。夢を見たような、そんな気さえするがもう頭の片隅にも残っていなかった。あたたかい、しあわせな夢だった。ゆっくりと身体を起こすと長い髪が何も身につけていない肌を隠すように流れ落ちる。ゆっくりと両手を握る、掌にじんわりと沁み渡るような温もり。誰かと触れ合っていた夢だったのだろうか。ぎぃ、と軋む音の先を見ると頸に流れる濃紺色の髪。身に纏うシーツは半分程はだけ、所々に赤い傷痕を残す肌が覗いていた。
「安吾?」
静かに煙草をふかしていた安吾が振り返る。その表情はいつもような笑顔はない、遠くを見つめる瞳は何を思っているのか、どこか憂いを帯びていた。濃紺と反する肌には紅い華が咲いている。
「よぉ、おはよう。よく眠れたか?」
「うん。あたたかい夢を見た気がする」
「そうか、それはよかったな」
大きな手が覆うように髪に触れる。ぐしゃぐしゃと音が鳴りそうな乱暴な手付きももう慣れた。ぐらぐらと揺れる思考の中、夢の中のあたたかさと似たものを感じたようなそんな気がした。