薄紅色、尊く

ほんの数日前まで肌寒い風が吹いていたというのに、気が付けば春の陽気に誘われ、中庭の桜も薄紅を宿していた。趣味でしているとも言える中庭の手入れに取り掛かると、風にゆらゆらと揺られた花弁がいくつも空から降ってくる。ふわり、ふわり。落ちて来た花弁を掌で受け止める。まあるい杏の花弁とは違い、先に切り込みの入った形はどこか可愛らしさを感じる。
春は良いものだ、膝を軽く払い腰を上げる。そのまま当てもなく桜並木に誘われるように足を進める。ふと、室生の視線は司書室のある窓
へと誘われる。窓枠越しから見える司書室内には、司書の仕事をしているのか、蜜柑色の飾りがついたヘアゴムで一つに結われた長い髪が揺れていた。その様子が、まるで猫の尻尾のように見えるのは失礼か。そう思いながらも千晶を思い出すと思わず頬が緩む。

「お花見でもしてみるかな」

仕事途中とは言え、多少時間を頂いても怒られはしないであろう。その分の責任は取る、それで許して貰おう。そう思いながら、室生の足取りは自然と司書室の窓へと向かって行った。

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