たすけては呑み込んだ

週末恒例となっためくるめくプライベートタイムという名の徹夜で引きこもりゲーム時間。互いの持つゲーム機からは賑やかな音。鈴音の素材集めクエストに手を貸していた至の耳に、ゲーム音ではない音が届く。泳がせた視線の先、その正体は閉められたカーテンの外。生易しい物では例えられない程の雨粒が激しく地面を叩く。丁度クエストに一区切りもついたので、雨が吹き込まぬ前に開け放っていた窓を閉める為、至は重い腰を上げソファーを立つ。突然の豪雨とゴロゴロと音を立て、今にも荒れ出しそうな夜の雲。天候が悪くなろうが引きこもりには関係はないと思いながら窓に手を掛ける。ガタン、と大きく背後で鈴音が立ち上がった姿を至は捉えていた。
「何してんの?」
「何でもない、ちょっと用事思い出したから部屋帰ろうかなって」
「は?装備強くするって言ったろ」
「そうなんだけど、でも、ちょっと、あの」
明らかに何か様子が可笑しい。突然、何を思ったのか、ゲーム機すら机に置いたまま慌しく扉へと向かう鈴音を引き止める為、近付こうとしたその瞬間。カーテン越しに空が数回光ったと同時に、強い雷鳴が響き渡る。小さく悲鳴をあげた鈴音は両耳を塞いだままその場にしゃがみ込んだ。
ああ、そういう。その姿から、さっきの行動の意味が至には大方理解出来ていた。近くまでやってきた至にも気に掛ける余裕はなく、鈴音の体は小刻みに震えていた。
「雷、怖いんだ」
「っち、が」
反論する間も無く、雷鳴は容赦なく続く。聞こえないようにと両耳を覆う手は至の声すら阻んでしまい、顔も上げられないままでいると、その手の上に一回りも大きな掌が重ねられる感触。無理矢理にでも剥がされる!だめ、と伝えようとした言葉は、耳を塞いでても聞こえる程近くに口を寄せられ、発せられた言葉に飲み込まれた。
「え、」
至の言葉を理解出来ずにいた思考を巡らせるその前に、ふわりと浮遊感。気が付けば重ねられた手は離され、体に回されていた。近過ぎる距離で視界に入る至の綺麗な顔。
「い、至。なに」
「だから、雷、聞こえないようにしてやろうかって」
降ろされた先、ベッドへと沈む体。混濁する意識は雷の音すら認識していないのは確かだった。

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