まばたきの熱に浮かされて

朝御飯により満足感に満たされた頭が既に眠気を誘っている。昨晩遅くまで至とゲームに熱中していたとはいえ、登校前にそれはどうか。気合いを入れるために頬を軽く叩いた。と言っても、そんな行為気休めでしかないのだけど。
自室に戻り、出勤準備でもしているであろう至に挨拶でもして行こうと思った頭は、自然と通い慣れた至の自室へと向かう。殆ど住み込んでいる現状とはいえ、流石に城の主がいる部屋に堂々と足を踏み込むのは問題なので、ノックをすると帰って来た返事。
「忘れ物?」
扉を開け、スーツ姿を見せた仕事モードの至からの第一声に、思わず返事を忘れる。その言葉はなんだか狡い。こういうの、同棲してるみたい。
「わ、すれものじゃないんだけど」
「そう?何、どうしたの。もう出る時間じゃない?」
ちらりと自室の壁時計に至は視線を向ける。その瞬間、ふわりと香りが届く。至が愛用しているシャンプーとは違う、少し甘いような、それでいて清潔感のあるような香り。少し考えれば香水である事には気付くというのに、思考が回らない。いってきます、と一言挨拶をしに来た筈なのに、何でこんな至に魅了されているんだろう。
「鈴音?」
「何でもない!…いってきます」
「いってらっしゃい」
優しい声色と共にぽんぽんと撫でられる頭。まともに顔を上げることも出来ず、朝からとんだダメージを負ってしまった。軽率にお仕事モードの至に接するべきじゃないと、眠気は覚め切ってしまった頭で思うのであった。
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