淋しい呼吸のすゝめ

珍しいこともあったものだと。今10連したらSSRが出るかもしれないと、思考を別方向へ飛ばしながらも、手は至の髪に伸びる。
ノックもなく帰ってきたと思うと、そのままジャケットを脱ぎ捨て、ソファーでソシャゲをしていた鈴音の腰を至の両腕が捕まえたのだ。あまりに想像もしてなかった出来事に、手にしていたスマホは床へ滑り落ちた。果たして、どうしたものか。何一つ言葉すら放たれないと、こちらもどうしていいかわからない。腹部に擦り寄せられるかのようにあるその頭、表情こそ見えないけど、何となく仕事で何かあったのかもしれない。社会人には社会人なりの苦労もあると学生ながらわかってはいるつもりだ。きっとお疲れなんだろう、そう勝手に結論づけ、その頭を撫でた。やわらかな髪が手に馴染むようで心地よい。手付きに合わせて、頭は左右にゆらゆらと揺れる。いたる、呼んでも返事はなかった。吐き出された吐息が、熱を帯び腹部に温もりを与える。妙にむず痒いような気もするけど、至の気が済むまでこのままでいてもいいのかもしれない。硬く抱き締められた腕を振りほどくなんて、出来ないのだから。
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