きみを愛する魔物です

(オメガバースパロ)

コントローラーを握り、画面に向き合う鈴音の笑顔が輝かしい。あくまで平静を保つように思考を巡らせる。気持ちを逸らしてはいけない、一瞬のうちにも飲み込まれてしまいそうな欲を抑え込み、意識を鈴音から離す。大丈夫、大丈夫。触れられさえしなければ、このまま保ち続けることは出来る筈。彼女の笑顔が見たくて、純粋にゲームを楽しむ姿が見たくて、部屋に招いたんだ。こんな事で、α性だΩ性だ運命の番だなんて何一つ知らない少女を傷付けたくない。くらくらと、思考が揺れる。鈴音の口が動いているのはわかるが、声が入ってこない。
「至お兄ちゃん?」
「ん、何?」
「大丈夫…?さっきから返事もないし、もしかして、しんどい?」
大丈夫、何ともないよ。口から出る筈だった言葉は声にならず、段々と整わない息へと変わっていく。此方を覗き込むように見据える鈴音との距離が近付いていくのが感じられた。
「顔も赤いし…、熱があるのかも」
触れないで、触れないで。頼むから、離れて。
そう願う想いは届くとこもなく、伸びてきた細い腕が、頬にひんやりとした感触を与える。小さな掌に熱が奪われる感覚を体感したその瞬間、鼓動が大きく跳ねた。
「え、」
ぐるり、視界が回る。沈むソファーの上、肩を押され組み敷かれた鈴音がそこに居た。何が起こっているのか理解出来ていない、無知な少女を目の前にして、抑え込むことが出来ない本能が欲望となって、どろどろと溢れ出し始める。
嗚呼、最悪だ。いつの日かこんな事になるとは分かっていた、それでも自分なら大丈夫だ、耐え切れると慢心していた。少女を泣かせてしまうのならいっそ、出逢わなければよかった。

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