とんだシナリオ

ゲーム音に反応して小さな頭が揺れる。表情こそ見えないが、普段小言を言うお喋りな口から何も出ないところを見ると余程集中しているようだ。こうなってしまうと暇で仕方がない。別に他にするゲームは幾らでもある、体勢的にコントローラーを握るのが不可能ならスマホを手に取ればいい。それだけの行為が何故か勿体無く感じてしまう。頭に顎を乗せ、少し体重を掛ける。ギィ、と音を立てたソファー。揺れる頭は動きを止めたがそれでも反応はなく、鈴音の手にしているゲーム機から音が流れるだけ。
背中を預け隙だらけの体勢だと言うのに、警戒心がこれっぽっちも無いのは如何なものか。好んで膝上に鈴音を座らせている身としては注意するのも今更か、それとも承知の上か。心を許されている事はわかるが、意識すらして貰えていない現場。
「鈴音」
「なに」
ゲームと俺、どっちが大事なんだよ、と今ならその在り来たりな台詞の意味すらわかる気がした。そう鈴音にも思わせているのかもしれないが。しかし、待てといって大人しく待つほど主導権を譲ったわけでは無い。暇を持て余していた両の手をゆるりと細腰に回す。そのまま撫でるように腹部に手を這わせると、流石の鈴音も小さく声を上げた。
「至、あの、ちょっと待って…、もうすぐクリアだから」
「いいよ、鈴音が待てるなら」
意地悪かもしれないがそれもそれ。果たしてクリアするまでにどこまで我慢できるのか、それともギブアップするのか、まるでゲーム感覚。それ程にまで夢中にさせてくる鈴音が悪いと、無理にでも理由をつけ、撫でる手を少しずつ上へと這わせていった。
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