エンディング・イズ・ハッピー

一年が過ぎるという事は思った以上にあっという間の事でして、気が付けば4月も終わりに近づく今日この頃。あの頃はまだ出逢ったばかり、爽やかなエリート商社マンだと思いきや、まさかの廃人ゲーマーな一面があるなんて思いもしなかった。いつのまにか当たり前のように103号室に居て、隣に座ってゲームをする事が日常になっているなんて、きっと一年前の自分に言ってもそんな夢みたいな事、と思うでしょう。それだけに至との出会いは私にとって日々を変えてくれたと言える程、大きなもの。
「鈴音、そっち処理して」
「わかった、サポート回る」
被ダメにより減少するライフに小さく舌打ちが聞こえ、次の瞬間には喜びの掛け声。対人戦は苦手だけど、至の実力もあってギリギリの勝利に一度息を吐いて胸を撫で下ろす。差し出された左手に向けて、パチンとハイタッチをすると、心底楽しそうな笑みを浮かべる至がそこにいた。本当、何て楽しいんだろう。
次の戦闘に向けて装備を整えて始めた至を横目に、ソファーに置いていたスマホを手に取り、少し傾ける。ロック画面に記された時間はもう間もなく日付を跨ごうとしていた。
「準備おけ、鈴音は装備変えなくていい?」
「アイテムだけ補充しておくよ」
「りょ。待機しとく」
片やコントローラーを握りアイテムを補充しつつ、ちらりと視線をやったスマホには0の数字が並ぶ。
「至」
「ん?」
「誕生日、おめでと」
言えた、言えたのだ。一年前は言えなかった祝いの言葉が。隣に居る彼に、一番に伝えられたのだ。コントローラーを握る手は止めてはいけないと思いながらも、沸々と湧き上がる満たされたような感情に思わず頬が緩む。きっと情け無い顔をしてるのはわかってる、だからこそ至の顔が見れないのだ。
「…ありがと、鈴音」
ぽんぽん、と軽く撫でられる頭。次の瞬間には戦闘開始を告げるBGMが鳴り響く。さぁ、もう一戦。生誕祝いに相応しい勝利を、彼に届けようではありませんか。
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