なんて贅沢な嘘なんでしょう

仕事帰りにスーツ姿で寄る通い慣れたゲーセン。ふらりと店内探索をしていつものお目当ての実機に向かう束の間、ふとUFOキャッチャーに目が止まる。薄桃色をしたまあるいウサギのクッションのようなぬいぐるみ。別段、自分向きと言う訳では無いのだが、一目見た時に思わず鈴音の顔が浮かんだ。脳内イメージが一致したとも言える。そのまま自然と両替機に向かった体は、気が付けば大量の小銭を生産し臨戦態勢に入っていた。

寮に帰宅すると共に周囲に挨拶を交わし、彼女の姿を探す。大体は彼女の自室か103号室の2択だが、さて今はどちらだろう。取り敢えず鈴音の自室へ向かおうとした所、部屋着を身に纏った鈴音と鉢合わせる。
「鈴音」
「あ、おかえり至。部屋行こうとしてたの」
なんてナイスタイミングだこと。後ろ手に持ち歩いていたゲーセンのロゴ入り袋の中身を取り出し、胸の前で構える。
「これ、お土産」
「うさぎ…!え、いいの?」
目をぱちくりとさせ、驚きを隠せない表情を浮かべる鈴音に優しくぬいぐるみを手渡す。両腕を回し、それを抱える姿は脳内イメージと一致して想像以上心が躍る。
「もち、ワンコインで取れた」
「ありがとう至…!大事にする!」
普段はあまり見れない程素直な受け答え。何よりも純粋に喜んでくれている事が、可愛くて仕方がない。
部屋に置いてくる、と慌ただしく引き返していった彼女の後ろ姿を見送り、自分も着替えてゲームの準備でもしようと、自室の方へと体を翻す。
ワンコインと見栄を張りつつ、擦り減った財布の中身と引き換えに、鈴音の喜ぶ顔が見られたので俺としては大変満足であるのであった。
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